何もなかったような顔をして、笑うなんて。4 ページ33
.
"持つよ″
私の隣に来た江波戸くんは、
野球ボールが入った籠を抱えた私と目を合わせずにそう言った。
.
籠の両端を2人で持って、
ゆっくりと、
グラウンドへ続く坂を下りた。
.
「・・・」
「・・・・・・」
.
皆の騒がしい声が、
どこか非現実的に遠くから聞こえて。
.
「昨日、よく眠れた?」
「ん?」
.
ようやく、こっちを見た江波戸くんは、
何が?と
小さく首をかしげる。
.
「ほら、1人じゃないと寝れないって。」
「あぁ・・・うん、」
「昨日、眠れたのかなぁ、って。」
「んー」
.
白い帽子のつばが、
彼の顔に影をつくる。
.
「目閉じて、羊数えてたら、」
「・・・」
「いつの間にか、寝てたかも、」
.
ふふ、と目を細めて笑う姿は、
昨日と全然変わってなくて。
.
「鈴森さんは?」
「え?」
「よく眠れた?」
.
そんな、江波戸くんに、
″あなたのせいでドキドキして眠れませんでした、″なんて、
嘘でもそんなこと言えるはずなくて。
.
「んー・・・たぶん、」
「たぶん?」
「うん。なんかさ、身体は寝てるのに頭だけふわふわしてて、
眠れてない感覚って、分かる?」
「あぁ、分かるかも。勉強終わってすぐ寝たりとかすると、」
「うん、」
「頭の中まだ働いてるから、寝た気しないんだよね、」
「うん・・・それ、だった。」
.
そうなの?って、
覗きこむような仕草。
どくん、と胸が鳴る。
.
「だから、」
「・・・」
「早く、目が醒めちゃって、」
「そっか、」
.
ふわふわ笑うそれは、
いつもと全然変わってないはずなのに、
どうしてだろう。
.
彼のそれが、
なんだか違うものに見えてくるのは。
.
だって、なんだか。
・・・怒ってる。
.
何もなかったような顔をして、笑うなんて。5→←何もなかったような顔をして、笑うなんて。3
260人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ