if... 2013 〜広島V2記念作品〜 6

26 chiba side ページ26

トシの名前を呼んだAの声と、Aをあしらうトシの声。


それだけで不安でいっぱいになった。


急ぎ足で車に戻りながら、携帯を強く耳にあてる。


千葉｢A？泣いてんの？｣


A『……』


Aはこんなに苦しそうなのに、俺はそんなAが愛しくてたまらなかった。


我慢して1人で辛い思いをしているのかと思うと、喉の奥が甘酸っぱく痛む。


千葉｢Aちゃん｣


愛しさを目一杯込めて名前を呼んだ。


千葉｢抱っこ係、すぐに戻るから。もうちょい我慢な｣


A『……平気』


嘘つき。


Aの"大丈夫"は、世界一愛しくてやるせない嘘。


千葉｢A、電話もうすぐ切れるけど……｣


電池切れの音が邪魔をする。


千葉｢すぐに……｣


A『……だ、やだ……チーちゃん、切らな……』


電話が切れると、急ぎ足を全力疾走に変えて車に戻る。


千葉｢マッハで帰るぞ！｣


エンジンを切ろうとしていたトモが目を丸くした。


トモ｢……まじ？｣


岳人｢え！？なんかありました！？｣


千葉｢いいから、早く！｣


シートベルトを握り締めて、探りを入れるトモと岳人を否した。


寮に着くと2人を置いて走り出した。


トシの部屋のドアをノックもせずに開ける。


千葉｢Aは？｣


青山｢……上の空き部屋のどっかのクローゼット｣


千葉｢トシ｣


ベッドに伏せたままのトシがどんな顔をしているかなんて、すぐに分かる。


千葉｢あのな、Aはトシじゃないとダメだよ。でも俺はそれでもAが好きだから｣


優しくも非情な宣告をして、空き部屋を片っ端から探した。


最後の部屋のクローゼットが少し空いているのを見つけて、そっとドアを閉める。


千葉｢みっけ｣


しゃがんでクローゼットを開くと、Aが勢いよく飛びついてきた。


A｢チーちゃん……｣


千葉｢何された？｣


A｢また青ちゃんが跡つけたの……｣


泣きながら胸元を開くAの手を取った。

27 chiba side→←25 ao side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す