if... 2013 〜広島V2記念作品〜 6

21 ao side ページ21

トップの寮の造りは、ユースの寮の造りに似ている。


この空き部屋に2人でいると、昔を思い出す。


青山｢この前……｣


声を出すと、Aの肩がビクッと跳ねた。


青山｢……この前、ごめん｣


A｢大丈夫｣


青山｢あの後千葉ちゃんにキスされたってほんと？｣


A｢ほんと｣


Aはワンピースの首元を人差し指で引っ張った。


A｢だいぶ消えてきたけど……｣


青山｢え？｣


キスされたって……


青山｢……そこにされたん？｣


A｢青ちゃんと同じとこ。だからなかなか消えなくて……｣


こいつ……


込み上げる怒りや嫉妬心を何とか抑えた。


俺が何か言える立場じゃないよな。


突き放したのは俺だから。


A｢今日じゃないから浮気じゃないよ｣


したり顔で笑うAには、俺のことなんか全然分からないんだろう。


ついでに、今墓穴掘ったことにも気付いてない。


青山｢今日なら俺、してもいいんだ？｣


A｢なに……｣


向かいに座るAの頬に触れた。


Aが動かなくなる。


青山｢あの日のが最後なんて最低じゃん。やり直しさせて｣


Aは少し迷って、触れた手に縋るように、頬をすり寄せる。


A｢……いいよ。長い人生の、たった3時間だから｣


青山｢もう3時間切っとるよ｣


顔を近づけると、Aも幸せそうに目を閉じた。


青山｢A……｣


自分でも驚くくらい、力の抜けた声だった。


安心する。


残り時間が定められていたとしても、幸せだ。


腕に抱いて唇を軽く重ねると、Aは胸に飛び込んでくる。


A｢ドキドキするんだけど！｣


青山｢お好み焼き、箸で食って正解でしょ？｣


もう十分だった。


あとはこの小さな身体をしっかり抱きとめて、柔らかい髪をずっと撫でていられれば十分。


青山｢めちゃくちゃ好き……｣


抱きしめたAの背中に顔を埋めて呟いた。


A｢誰を？｣


寂しそうな声を聞くと、A以外の全てを放り出してしまいたくなった。


青山｢今日だけは、Aを｣


A｢じゃあ今のうちにもっと言って｣


甘えるAの髪を指に巻き付けて窓の外に目をやった。


駐車場から、荒々しく車のドアを閉める音が聞こえた。

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