レンゲソウ ページ36
獄寺 side
遠い記憶から現実に意識を戻す。
目の前には、あの日探していたAが
俺を黙って見つめている。
獄「A、あの後なにがあったんだよ。」
「・・・。」
するとAはそっと俯き顔を伏せる。
俯き見えなくなってしまったAの顔は
今、どんな表情なのか。
獄「・・・・。」
笑っていない事だけは確かだった。
病室で笑ったAに会った時。
俺は全てを思い出したのだ。
笑った顔はあの時よりも大人びていて、とても綺麗に
なっていたが、あの頃のAと変わらなかった。
獄「・・・あの頃は、毎日が地獄だった。」
「・・・。」
俺は俯くAに話しかける。
獄「どのマフィアにも入れてもらえず、いろんなヤツ
から暴力を受けて。ボロボロで・・・俺、あそこで
死んでいてもおかしくなかった。」
俺は今でも思い出せる。
あの地獄のような環境と生活を。
獄「でもAに会ってからは辛くても、苦しくても平気だった。Aが居てくれたから救われたんだ。」
「・・・。」
Aは俺の話を聞きながらゆっくりと顔を上げて、
俺を見つめた。
その表情は変わらずに無表情だったが・・・
獄「・・・あの時はありがとうな・・・。」
「・・・・。」
俺がそう言うとAは少しだけ笑った。
しかし、その笑顔には悲しみが含まれているようで。
あの頃とは程遠い笑顔だった。
獄「Aが話したくねぇなら・・・聞かねぇ。」
「・・・。」
あの時。
見つけられなかったAが俺の目の前にいる。
その事実を確認するように俺はAに手を伸ばす。
獄「でも。これからはお前１人にはさせねぇから。
辛い時は・・今度は俺が・・・そばにいてやるからよ。」
「・・・。」
俺はそう言ってAをそっと抱きしめる。
すると、Aは俺の腕の中で小さく頷いた。
あの頃のAは、笑顔で自分の感情を隠していたが、
今では無表情だ。
結果的には無表情で感情を隠しているからAが何を
考えているのか、何を思っているのかは分からない。
それでも・・・・今はそれでもいい。
獄「・・・。」
俺はまた、Aに会えたんだ・・・。
俺は腕に力を込める。
Aの長い黒髪からは昔と同じ。
レンゲソウの甘い香りが香っていた。
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作者名：猫のこたつ | 作成日時：2019年7月29日 4時
