隼人 ページ32
Aside
私は黙ってレンゲソウを摘む。
風に揺れるレンゲソウからは甘い良い香りが
香っていた。
「・・・。」
獄「・・・。」
私の目の前に座り込む獄寺はレンゲソウを摘む私を
黙って見つめている。
そんな彼の表情は言葉で言い表すには難しく、何とも
言えない表情で、眉間には深いシワが刻まれていた。
「・・・・。」
獄寺は突然、私にレンゲソウの冠を作るように
指示を出した。
なぜ私が、レンゲソウで冠を作れるのを知っているのか。
私は不思議だった。
公園は広い芝生が広がっている。
もう時期は終わってしまったハズなのに、この公園には
レンゲソウがたくさん咲いていた。
「・・・・。」
獄「・・・。」
十分な量が集まり、私は冠を作り始める。
甘いレンゲソウの香りに包まれながら
私は黙って冠を作る。
そんな私を獄寺は静かに見つめていた。
彼は一体、何がしたいのだろうか。
そんな事を考えながら手を動かせば、レンゲソウの冠が
完成した。
「・・・。」
私は冠を、どうしていいのか分からず・・・
とりあえず獄寺の頭に乗せてみた。
獄「・・・。」
「・・・。」
獄寺は私を見つめる。
しばらくすると彼は冠を取った。
そして・・・・。
獄「・・・やっぱりAの方が似合うな。」
「っ！！」
そう言って私の頭に冠を乗せた。
その時の、私を見つめる彼の優しい瞳。
微笑む笑顔。
髪を撫でる手。
その景色は私の記憶を呼び起こす。
私は・・・全てを思い出した。
「・・・・・。」
私は・・・彼を知っている。
獄「・・・・思い出したか？」
「・・・・。」
私は黙って頷く。
獄寺隼人。
隼人。
ハヤト。
「・・・。」
そうか・・・彼はハヤトだったのか。
今までなぜ忘れていたのか。
時間の流れは残酷だ。
あの時の大切な思い出も忘れてしまうなんて。
獄「・・・A・・笑わねぇんだな。」
彼は私を見つめ、寂しそうに呟く。
「・・・。」
私は・・・・昔と変わった。
獄「・・・あれから探したんだ。Aの事。」
「・・・。」
彼はそう言うと私の頬に手を添える。
獄「でも・・・・見つからなかった。」
「・・・。」
私を見つめる彼の瞳が揺れる。
そんな彼の瞳には・・・
昔と違う
無表情の私が映っていた。
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作者名：猫のこたつ | 作成日時：2019年7月29日 4時
