メモ ページ46
「・・・・・・。」
雲「・・・？」
すると、彼女は小さく口を動かした。
僕は何をしているのか分からず、
黙って見下ろす。
彼女は僕のそんな反応を見ると、ポケットから
小さなメモとペンを取り出した。
「・・・・・。」
彼女はそのメモに何か字を書いている。
そして書き終わると、僕にメモを差し出した。
雲「・・・・。」
ごめんなさい
そのメモにはそう書いてあった。
僕はメモを見てから彼女を再び見下ろす。
すると彼女はまた同じように口を小さく動かした。
僕はその口の動きを見て気づく。
ご・め・ん・な・さ・い
そう、言っているようだ。
雲「・・・・声・・・出ないの。」
「・・・・。」
僕がそう言うと彼女はゆっくり頷いた。
今まで何も言わなかったのは
声が出なかったから・・・
まさか声が出なかったとは思わず、
僕は少し驚いていた。
そして思い出すのは、彼女と初めて出会った時の事。
階段から落ちた彼女を僕が受け止めた時。
彼女は僕を引き留めた。
だけど、彼女は何も言わなかった。
でも、本当は喋っていたのだ。
彼女はあの時、今と同じように口を動かしていた。
そしてそれは６文字。
きっと今と同じようにごめんなさいと
言ったのだろう・・・。
雲「・・・。」
僕はなぜ彼女が僕に謝っているのか理解できなかった。
普通、そこは助けてくれた事に感謝し、
ありがとうと言うのではないだろうか。
そんな事を思いながら彼女を見下ろす。
雲「・・・・。」
「・・・？」
僕はそこまで考えて・・・
考えるのを止めた。
そして机に戻ると書類の片付けを始める。
そんな事考えてどうするのか。
別に彼女の事はどうでもいい。
僕は学校の風紀が乱れるから、
あの不良を噛み殺したのであって、
別に彼女を助けたかったからという事では無い。
彼女が僕にお礼を言おうが、
謝ろうが僕には関係無いのだ。
彼女は僕の事を少し不思議そうに見ていたけれど、
ソファーから立ち上がるとこちらを向いて
お辞儀し、部屋から出て行った。
僕は彼女を引き留める事は無かった。
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作者名：猫のこたつ | 作成日時：2019年10月29日 16時
