蝶 々 結 び【 ヒプノシスマイク 】

ラ イ ラ ッ ク 【 観音坂独歩 】 ページ5

僕の目が覚めたのはしつこいほどうるさい目覚まし時計、ではなく。
震え続ける携帯の音のおかげだった。


胸がドキりと鳴る。上司からだろうか。
もしかしたら、今すぐ出勤しろと叱られるのだろうか。
ああ、せっかくの休みなのに…。



憂鬱な気分で携帯を開くと、そこには上司の名前ではなく、Aの名前が書いてあった。
もう一度、胸がドキりと鳴る。
待ちに待ったメールである。



文面を見ると、『 この後暇ですか 』 の七文字。
すぐに返そうとするが、なんて返せば良いのか。
いや、返事が早すぎると気味が悪いと思われるだろうか。
ああ、悩ましい。



『 暇です 』
送信ボタンを押すのを躊躇う。
素っ気なさすぎ？ いやいや、でも変な絵文字をつけても気持ち悪い。
意をけして送信ボタンを押すと、すぐに読まれたことが分かる合図がつく。
気持ちが高ぶって、落ち着かない。



『 今から会えますか 』

『 会えます 』

『 では、もう少ししたら独歩さんの家に向かいます 』



………焦りと緊張が僕を襲う。
こんな事があっていいのか。
ああ、きっと、こんなにも良いことがあったら、いつか彼女に拒絶されるだろう。



「 ………やばい 」
僕の声が部屋に響く。
同居人もまだ帰宅しないし、しばらくは僕に自由権がある。
つまり。

僕は慌てて飛び起き、服に着替える。
早着替え大会があれば優勝できるような記録的速さ。
自分で自分を讃えたい。




準備を終わらせた僕は、今日の予定について考える事にした。
彼女を想い続けてもう三ヶ月。
そろそろ「 好き 」と伝えてもいいだろう。
冬が来る前に、この恋は実らせたい。
では、どのタイミングで伝えれば良いだろう。
こういうのは、雰囲気とタイミングが肝心……だと僕は個人的に思っている。


帰り際に、腕を掴んで 「 好き 」 と伝える。
これもいいが、その時に同居人が運悪く帰宅してきたら死にたくなるほど恥ずかしい。
では、来たときにさらっと伝える。
いやいや、これだと断られた場合、その後が困るだろう。
相手も僕も過ごしにくすぎる。
ああああ、どうしようと頭を抱えていると、僕の中に素晴らしいアイデアが浮かんだ。



ライラックだ。
僕にはピッタリではないか。



僕は家を飛び出し、近くの花屋へと向かった。
これなら、僕の気持ちが伝えられるのだろう。




紫色のライラック。

ライラックの花言葉は





『 初恋 』






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