１７１ ページ22
ー東京
人間たちの拠点を眼下に見下ろす。
「どうだ？」
『いましたねー』
淡々とした声で彼女は言葉を返す。
が、その瞳の奥に宿る色にAは気付いているのだろうか。
『あの人は吸血鬼専門部隊なので、ちょっと突けば出てくるかと』
こちらを見ずに言うそれに不快感を感じてAの手首を掴めば彼女は目を白黒させ、そして気付いたようにバツの悪そうな顔をした。
『…すみませ、』
「謝るな。別に怒ってない」
『…その割に機嫌悪そうなんですが…』
「まぁ、そうだな。不愉快ではある」
それ怒ってんじゃん…と小さなそれを耳が拾い、Aの顎を掬い上げると噛み付くように唇を重ねた。
びくり、と大きく身体を揺らせて強ばらせたが、それを解すように何度も唇を重ねる。
『っん、』
溢れる吐息すら逃さないように。
「…帰ったらもっとしてやるからな」
『、…ほどほどに、お願いします』
か細い声で言った彼女にもう一度キスを落とすと、視線を人間どもの建物に戻す。
そこにいる一人の人間。
軍服を纏った、彼女と同じ黒髪にアメジストの瞳の男。
Aの、兄。
「…」
のうのうと、仲間と話している。
誰を犠牲にして得たものなのか分かっているのか。
ああ、不快だ。酷く、不愉快だ。
あの男を殺してやりたい。Aを苦しめた存在を。俺以外に執着心を向けられる忌々しい存在を。
『ウルドさま、』
くい、と控えめに袖を引っ張られる。
Aはどこか不安そうな表情で俺を見上げていた。
「大丈夫だ。…だから、おまえは自分のなすべき事をしてこい」
彼女の頬に触れそう言えば瞳を閉じて、すり、と擦り寄ってきては一度大きく息を吐いたA。
『…、』
輝くアメジストが俺を貫く。
『…もう、大丈夫です』
「無理はするなよ。おまえが苦しむ姿は見たくない」
『優しいですね』
「Aにだけだ」
『あはは、光栄です』
「、A」
『…帰ったら、甘やかしてくださいね。たぶん、少し…ほんの少しだけ、心が揺さぶられると思うので』
「ああ。好きなだけ、甘やかしてやる」
それにAはふにゃりと気の抜けた顔で笑うと、ひたと前を向く。その瞳にはもう、迷いは見られない。
『…剣よ。私の血を吸え』
吸血鬼の武器としては珍しい、刀。それに血を吸わせたAは斬撃を放つ。
すると蜂の巣を突いたように出てくる人間たちの中に、そいつもいて。
『では後ほど』
それを見た彼女は、美しく微笑んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 139人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：クウ | 作成日時：2022年4月5日 20時
