その瞳に世界が"移る"時 [ハリー・ポッター] (ページ31)

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29話ページ31

父上は息がかかりそうなくらい距離を縮めると、右手で私の頬を撫でる。

「私のお姫様は、随分と見ないうちに成長したものだ。」

オリオンは漆黒の烏の濡れ羽色の髪を揺らし、角度を変えれば青く光るパールグレーの瞳で我が子を見つめた。

低い、芯のある甘い声で囁く。

傍から見れば、愛娘との何ヶ月ぶりかの再会で感極まる父親に見えるだろう。…が、

無機質___。

日々ヒステリーを起こす妻と、言うことを聞かず反発し続ける息子。親に忠実だが次第に感情が無くなっていく娘。

曇ったガラス玉のような、何も映していない瞳で家族を見る。

__ここの所、父上はずっとそうだ。

その顔が、別邸にある不気味なビスクドールにそっくりで、私は嫌い…

__さぁ、ヴァルにも顔を見せてやりなさい。ずっと待ってたからね。

私の頬から手を下ろすと、背を向けて仕事に戻る父上。

こんな日ぐらい休めばいいのに、と母上が憤慨する顔が頭に浮かび苦笑する。

書斎を出ると、クリーチャーが焼きたての甘い香りを身に纏いながら、私を待っていたよう。

自分の口元が綻ぶのが分かる

「わぁ、本当にアップルパイ作ってくれたのね！」

大袈裟に喜び、ありがとうと頭を撫でると、クリーチャーはえっへんと胸を張る。

「ディナーまで時間があります。奥様が温室でお茶会の準備をしてますので、一緒に行きましょう！」

クリーチャーの耳が天使の羽に見え、くりくりの大きな瞳がキラキラと輝く。これが母性本能をくすぐると言うのね！

いつ誰が敵になるか分からない四面楚歌のホグワーツでは、ずっと気を張ってることが多く、思ったより疲労が溜まってたみたい

__クリスマス休暇はたくさんクリーチャーで癒されよう。
そう決意すると程なくして、離れにある温室に着いた。

ブラック邸の温室は、ホグワーツの湿った土と肥料の臭いで充満する温室と180度違う。

魔法で年中咲いている豪華な淡い色の薔薇、所々に虹色の柘榴とその花が火の燃えるように紅く咲き開き、紫陽花の色は青と紫の水玉模様。

__様々な季節の魔法の花や果物で温室は鮮やかに色付いている。

初めて見る人は誰もが思わず感嘆の溜息を吐くだろう、そのくらい美しいのだ。

「おかえりなさい。待ちくたびれましたよ、A。」

女性にしては少し低い声がAを出迎えた。

キッチリと髪を結った、ヴァルブルガ婦人__母上は、白いガーデンテーブルの前に立ち。淑女らしく優雅に微笑んだ。