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『寝た』
今何時?ここは時計がないからなぁ。
よっこいせ、と身体を起こして軽く解す。
首筋に手を当てれば牙の痕が残っていた。
『…はぁ』
隣の部屋にウルド様いるのかなー。いないとイイナー。
恐る恐るドアを開けて顔を覗かせ、ホッと息を吐いた。
『よしよし。いない。会議かな?』
そこにウルド様はいなかった。内心ガッツポーズをして部屋を出ようとし、はて、なんの書き置きもなく出て行っていいのか?と考える。
『うーん。ダメか』
でも、勝手にペンとか使ってもなぁ…ああ面倒だ。結局待たなきゃダメじゃん。使用人って面倒臭いな。
がらん、とした部屋を見渡す。センスのある調度品。これってウルド様が選んだのかな。見た目よし。性格よし。地位よし。センスよし。パーフェクトボーイかよ。嫌味かよ。
『〜♪』
暇なので壁に背中を預けながら小さく歌を口遊む。誰もいない部屋に響く私の声。
ーガチャ
『…あ』
少しして、ドアが開いた。そこから入ってきたのは部屋の主であるウルド様。軽く一礼する。
「よく寝れたか」
『え。はい』
「そうか」
なんだ?ちょっと雰囲気柔らかい気がする。
ウルド様が脱いだコートを受け取り、それをハンガーにかける。その間ジッと見られた。なんだ?
「A」
『はい』
名前を呼ばれて振り向けば、まぁまぁ近い場所に立っていて思わず仰け反る。
『な、なんですか?』
「A。おまえを…」
じ、と見下ろされて、ああ…と悟った。
『分かりました。解雇です…』
「おまえを、特別扱いすることにした」
『…ね…?ん?』
ん?んんんん?
「おまえを特別扱いする。だから逃げるな」
『…いや、私の話聞いてました?特別は作らない方がいいですって』
「おまえの指図は受けない」
『…』
なんだこいつ!!急に!!変なものでも食べたか!!馬鹿野郎!!
心の中で暴言の嵐である。
『それは持つべきじゃないでしょう』
「永く生きるんだ。一つくらい、特別を作ってもいいだろう」
『あの女吸血鬼にその情を向けたらどうですかねぇ』
「いや。おまえじゃなければダメだ」
『もう意味が分かりませんよ』
はぁ、と溜め息を吐いた。なんなんだ急に。本当に、意味が分からない。
「A」
『はい』
「私は…」
と、言いかけて珍しく淀むウルド様。
あ、これ言わせたらダメなやつだと直感で思う。
『あー。私、お腹空いたので行きますね』
「………ああ」
逃げるが勝ちだ。
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作者名:レイ | 作成日時:2021年5月2日 22時