敵の敵10―降谷side― ページ44
ピンポンと呼び鈴を押すと、「はーい。ちょっと待ってね」と、女性の声がして驚いた。
門扉を開けたのは、髪の長い綺麗な女性で――。
ああ、彼女が元大女優の工藤有希子かと気が付いたのはすぐだった。
「あら、新しい担当の方?今、優作は執筆中なの。でもせっかくだから上がって行って。お茶くらい入れますわ」と、有希子さんは一方的に畳みかけてきた。
出版社の人だと思われたのか。
「いえ――そういうわけでは。
あの、ここに沖矢昴って人、いますよね?」
「あらあら。昴君のお客様なんて珍しいわね。お友達?
今、在宅中かしら? ふらっと出て行ってしまうからよく把握していなくて、ごめんなさいね。確認するから、とりあえずあがってくださらない?」
流れるようにテンポよく話すので、口を挟む隙が無い。
とはいえ、工藤邸に上がるのはチャンスだ。有希子さんに誘われるままに、家に上がる。
広い洋風の家は、内装も豪奢で、さすが大女優と人気作家の自宅、といった風格だ。
しかし、工藤夫妻は今、ロサンゼルスで暮らしているのでは?
とはいえ、家に入れば美味しそうな料理の匂いが漂っていて――。
ここで暮らしているのが、赤井でもAでもない、と考える根拠には十分足りた。
そもそも、あの2人が自宅で夕食なんて作るはずがない。
「噂では、ご夫妻はロスにお住まいなのかと」
「ええ、そうよ。最近の拠点はロス。
だから、昴君には感謝しているの。
でも、最近はちょっと色々あって……。行ったり来たりしているわ。上がって行かれるでしょう? 昴君、居るのかしら。この時間ふらりとよく出かけちゃうからわからなくて。ちょっと様子を見てくるわ」
さすがに、玄関から勝手に家の中にあがるのはためらわれた。
玄関は綺麗に片づけられていて、靴の数から在宅人数を確認するのは難しかった。
靴箱を開けてみれば、女性ものの靴がずらりと並んでいる。
紳士物の革靴やスニーカーもあり、誰のものかと把握するのは困難だった。
ただ、僕が記憶している限り、Aが所有している靴はないように見えた。
足音が聞こえたので慌てて靴箱の扉を閉じる。
「昴君、すぐに降りてくるって。上がってくださる? 紅茶くらいお出しできますわ」
「いえ、こちらで十分です」
「あら、そんなに遠慮なさらなくても」
にこりと微笑んで手慣れた手つきでスリッパを並べてくれる。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月25日 12時