カラオケボックス4 ページ24
そうはいっても、マスミにとっての「お兄ちゃん」も【今は】亡き人だもんね。
羨ましがるのも何か違うのかもしれない。
「そう、それは残念」
特段残念そうなそぶりもなく、シュウがいう。
「うん。いつか直接聞くといいよ。マスミがお兄ちゃんに話すかどうかはわかんないけど」
私は兄が生きていたら今の状況を話すだろうか。
聞かれたら話したかもな。兄妹仲は悪くはなかった。
いや、でもダメか。割と真面目な人だから、こんなふざけた付き合い方はやめろって怒られる気がする。別れろって怒鳴り込んでくるかも。
「Aは? 今ここで俺に話しておきたいことはない?」
近すぎず、遠すぎない距離で沖矢さんがソファに座る。
「零との立ち位置を教えて」
「つまり、安室さん?」
そうだった。沖矢昴は降谷零のことを知らないってことになるんだよね。
「本当、よく呼び間違えないよね。私はものすごく混乱する」
「そんな時は、他の人の存在を頭から消せばいい」ものすごく簡単そうな口調でわけのわからないことを言うから、天才とは対等に話ができない。
そろそろ私は天才でないことに気づいて欲しい。いや、知っているはずだよね?
「だったらもう、その姿でシュウの口調はやめて?」
「あなたのリクエストであれば、そうしましょう」
でも、沖矢さんの丁寧な口調にしたとたんに私は彼のことをとても遠くに感じてしまい淋しくなる。
「やっぱり嫌だ。シュウがいい」
そういえば、沖矢さんは普段とは違うことさら甘さの漂う笑みを浮かべて私を見つめるから、心臓が跳ねる。
「わかっている。大丈夫。君がどこかで呼び間違えてもフォローするから気にしなくていい」
命がけの変装なのに、いくらなんでもそれは私のことを甘やかしすぎだ。
嫌でなければこっちにおいでと、伸ばされた手をそっと掴む。彼は指先から順に私を手繰り寄せ、最終的に広い胸の中に抱き寄せる。
零が絶対にここの監視カメラをハッキングしないって言いきれる?
「カメラの映像のことなら気にしなくていい」と、シュウはさらにたちの悪いことを言いだすからこまる。
「それに、君の機嫌が悪い時は、たいがいスキンシップが足りない時だ」え、本当に? そんなこと言われても無自覚だったから確認しようもない。
「冗談だ」と、頭の上でくすりとシュウが笑った。
もう、この際こうしていられるならどっちでもいいや。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月8日 10時