Who are you？9 ページ3
よく慣れた猫の毛づくろいでもするかのように、シュウが私の頭や体を撫でるので、体が温まって眠くなってくる。
「私、帰らないと」
「眠ってくれて構わんよ。そのうち君のことを降谷君が迎えに来る。君は雨に濡れていた俺を放っておけなかったと、本当のことを言えばいい」
「こないわよ。……っていうか、来たら困るでしょ？」
「何故？」
シュウは、沖矢さんの姿のまま首を傾げる。
――ああそうか。本当に零が来ると思っているから、彼はこの姿のままなのだ。と、私はようやくそこで思い至った。
「じゃあ帰る」
膝から降りようとする私を、強い力で抱きしめなおすから全く身動きが取れなくなる。
「駄目ですよ。雨は本降りになっている。あなたに風邪をひかせるわけにはいきません。」
突然沖矢昴の声と口調になるの、ずるくない？
「ほら、自力でここから降りることもできないほど非力なのに、あなたは誰に対してでもむやみやたらと親切だから、本当に心配です。
もう、誰も拾わないで――」
「だって、目の前に困っている人がいたら放っておけないもん」
ふぅ、と、沖矢さんが至近距離でため息をつくから、さらりと私の黒髪が揺れる。
「せめて、一番は自分にしてもらえませんか？ そして、誰かを拾ったら必ずすぐに私に連絡を」
なんていうから、思わず笑ってしまう。
「何それ、おまわりさんみたい！」
「もう忘れたのか？ それが俺の本職だ」
とか、唐突にシュウの声音と喋り方に戻すから、ドキッとするし、そうやって声音と喋り方だけで私を翻弄するの、ずるい。
クレームを言おうと眼鏡越しの彼の目を見れば、ふわりと優しく微笑んでキスをするから言うタイミングを逃してしまう。
.
「A、今夜はどこにいるの？雨脚が強くなったし、差し支えなければ迎えに行こうか？」と、零から電話が来たのは、22時になる前だった。気づけば私はソファの上でシュウの膝を枕に眠っていた。
「あ……。ううん、大丈夫。タクシー拾って帰る。仕事でしょう？」
「君のことより大切な仕事なんてないよ。どこに迎えに行けばいい？」
家に帰宅して私の不在を確認したのか、それともGPSで居場所を見ていてあえて知らないふりをしているのか――。
零の言葉からは判別できない。前者であって欲しいけど。
「えっとね……ここ……なんて言ったらいいかしら」
阿笠博士を知らない零が阿笠邸を知っているとは思えない。工藤邸は――どうだろう？
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年11月8日 10時
