Who are you?10 ページ4
変わりましょうか? と、穏やかな声が降ってきた。
さっきまで本を読んでいたはずのシュウ(沖矢さん)が、とても穏やかに私を見つめていてドキドキする。
「すみません。説明してもらっていいですか?」
私は彼にスマホを渡して、体を起こす。もうすぐ夏だというのに私の身体にはブランケットがかけられていた。
「安室さん、お電話代わりました。
昨日、ご挨拶した沖矢です。
蘇芳さんにはいつも仕事でお世話になっています――ええ、今日も打ち合わせをしていたんですが、私が風邪気味な上に帰りに傘がないことを彼女がいたく気にして、こうして自宅まで送ってくださったんですよ。
話し込んでいたらすっかり遅くなってしまってすみません。
こちらですか? 工藤優作氏のご自宅をわけあってお借りしているんです。
場所はご存知ですか? ええ、もちろんです。お待ちしています」
ひどく他人行儀な口調で流れるようにそんなことを言っている沖矢さんは、一方で当たり前みたいに私を抱き寄せて頭を撫でているからね。
ほんっと、零、騙されているけど大丈夫?
いや、この場合は私も騙している方にカウントされちゃうんだよね、きっと……。
もう、どっちが悪い人なのかよくわからなくなってくる。
「きっとすぐに来る」
と、肩をすくめた沖矢さんは「君が大切にされていてよかった」と前髪をかきあげて額にキスをした。特に体調が悪そうになんて全然見えない。
「ねぇ、もしかして沖矢さんに熱があったんじゃなくて私が――」
しぃ、と、私の唇は彼の人差し指によって閉じられる。
「いいえ、雨に濡れて風邪をひきそうだったのは私。それを助けてくれたのがあなたで何も間違っていないですよ。
御礼に料理を振舞って話をしている間に、こんなに遅くなってしまって申し訳ありません。今夜はありがとうございました」
そうだよね、話に一貫性がないと私が困る。
もっとも、零がそんな話に耳を傾けてくれるとも思えないけれど。
「でも、ご飯はきちんと食べて。お菓子もまた、たくさん差し入れるから、君が一人で食べて」
「太るよ?」
「構わんよ。君が健康でいてくれるなら、それで」
それはもちろん、食べるだけでなくてきちんと筋肉をつけろということを言っているんだろう。
――結局、零と同じこと言ってない?
ピンポンと乱暴に呼び鈴が鳴るので、私はするりと沖矢さんの傍を通り抜けると玄関で靴を履く。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月8日 10時