秘密の共有8 ページ36
美術館は、平日だというのに以前零とデートで訪れたときよりもずっと多くの人でにぎわっていた。
観客に警察、野次馬とマスコミ、といったところだろうか。
「人気者だね、キッド君」と素直な感想を口にしただけなのに、沖矢さんは面白くなさそうに肩をすくめた。
そうはいっても、怪盗キッドのことなんてニュースくらいでしか知らなかったので、現場に来るのはワクワクする。
「ねぇ、盗まれる前に宝石見に行こう?」
「返却された後でも価値は変わらないと思いますけどね」
怪盗キッドは宝石を盗むが、必ず最後に返却する。
「それだと、後日改めてこないといけなくなるよ?」
そういえば、以前零といった宝石店でも返却されたビッグジュエルを見たことを思い出す。
「あなたとデートできるのなら、何度でも足を運びます」
とか、テノールの良い声で話している沖矢さんの言葉を聞き流すことにして、私は足をすすめた。皆、キッドの盗む時間に合わせて入館したいみたいで、来館早々中に入る人はそれほど多くなく、私たちはさほど待つことなく中に入れた。
「あ、昴さん!」
園子ちゃんの声がする。
「……と、Aさん?」
振り向けば、園子ちゃん、蘭ちゃん――そしてコナン君が居た。
「あ、私はキッドの件とは関係なく今日から始まるこの宝石展を楽しみにして、前売り押さえてたの。そのことをちょっと東都大で自慢したら沖矢さんが――」
「ええ、あれほど自慢されたら誰だって気になりますよ。園子さん、ありがとうございました」
あれ? 今日は木曜日。学校があるのでは……?
「だって、キッド様が来てくれるんだもん、逢わないわけにはいかないじゃない」と、おめかししている園子ちゃんがにっこりと笑顔を見せる。
「ちょっと園子。京極さんが可哀そうでしょ? コナン君もキッドキラーとして呼ばれたから、つい気になっちゃって……」
と、蘭ちゃんも続けた。
コナン君の何か言いたそうな視線には気が付かないことにする。
「キッド対策会議、始まるみたいですよ? 皆さん、お待ちです」若い警察関係者と思われる人物が、声をかけてきた。
私と昴さんは、展示室へと足を運ぶ。
数々のうっとりするような宝石が展示されている中、ビッグジュエルはひときわ目立つ場所に飾られていた。
きっと、今回もキッド対策として、さまざまな仕掛けが施されているのだろう。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月8日 10時