秘密の共有7 ページ35
ほんの一瞬、触れるだけのキスで顔を離す。
私が本当に怖いのは、【沖矢昴】と親しくなることで、彼の正体がバレること――。
「そんなに警戒しなくていい。君の態度から俺の正体がバレるようなことは、絶対にないと何度も言っているだろう。それにここには誰の目もない。確認済みだ」
泣きそうな私の顔を覗き見て、ことさら甘い笑みを見せる。
こっちは寝起きで、そもそも人が部屋にいること自体にも戸惑っているというのに、
「Aは本当に心配性だな、世界で一番俺のことを頼ってほしいのに、いつまでたっても頼ってくれない。君が想像するよりずっと、腕の立つスナイパーだ。
俺の腕前なら、少なくともFBIと今の米国国防長官をはじめとしたそこそこ名だたる要人は保証してくれるぞ? ああ、きっと降谷君もだ。それでもまだ足りないのか、Kitty。困った子だ。これ以上は出せる手がない。他に何か欲しいものがあれば言ってくれ。君が心をほどいてくれるまで、何でも何度でも差し出そう」と低くて魅惑的な彼独特の声音で語り、ぎゅうと腕の中に私を抱き寄せて不安も警戒心も丸ごと溶かしていくからかなわない。
誰が無口なんだ。雄弁にもほどがある。
「君の瞳が見たい、Kitty。頼むからこっちを向いて?」
という一見優しい口調で紡がれる言葉が意味するものはもはや命令にも近いもので、他に選択肢もなく顔をあげれば、沖矢昴のマスク越しに、とっておきの笑みを見せて私の頭に手を置いた。直後に降ってくるのは息をするのも忘れるくらい深くて熱いキスだった。
.
朝の身支度を整えて、家を出る。
キッドの予告時間は正午だけれど、あのまま家にいると延々【沖矢昴】のペースに翻弄されかねない。怖い。
別に私は赤井秀一のことを信頼していないわけじゃない。どちらかというと、くだんの組織に所属する降谷零と距離が近い自分のことを信用していないだけだ。でもそんな風に主張したところで、丸め込まれるのは目に見えているので、物理的に距離を取るに限る。
零が作ってくれた朝食は明日食べることにして、外に朝食を取りに出かけた。
馴染みのないコーヒーショップに入って、遅い朝食を食べたら数カ月前に戻ったような気持ちになれた。もっとも、目の前の沖矢さんは律儀に紅茶を飲んでいるし煙草も持っていないけれど、細かい相違は気にしないことにする。
117人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:まつり | 作成日時:2022年11月8日 10時