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見えない事実1 ページ26

「そろそろ、ポアロまで送りましょうか」

時刻は18時になる。

ふいにシュウの口調が、沖矢さんのものに戻った。

「ポアロまで?」その提案に私は首を傾げる。

「私があなたの自宅を知ったとなると、安室さんが心配しますから、きっと。この辺りであなたを偶然見かけたからご一緒したという形なら、信頼も得られるのでは?」

「なるほど」

一歩ずつコツコツ信頼を積み上げていきたいってことなのね。

と頷きたくなる半面

(え、本当に? あの赤井秀一がそんなこと考えているの? っていうか、シュウは人間関係に関してそんな常識を持ち合わせているうえにちゃんとした計算までできるの? だったら、これまでの非常識とも思われる行動の数々っていったい……?)という疑問が胸を過る。

ごくたまに、「沖矢昴という人が、赤井秀一を演じているだけなのでは……」と思えてならないことがある。同一人物とは信じがたいという瞬間。

まさにそれが今だ。

でも、ポアロに行くというなら今そんなことを突っ込んでいる時間がない。

だいたい、突っ込む時間がないタイミングでこういうことを言いだすよね、沖矢さんって。

わざとかな……わざとだよね。

私のもの言いたげな視線の意味がわからないわけじゃないだろうに、「遅くなったら安室さんが心配しますよ?」とごくごく穏やかな笑みと丁寧な口調で言って立ち上がる。

「ポアロまで来てくれるなら、1つ確認したいことがあるんだけどいい――ですか?」

つられてつい、言葉まで丁寧になりがちだ。

沖矢さんが、それを望んでいるのかどうかはわからない。

「ええ、なんでもどうぞ」

「昼間私を突き飛ばした人の身長、とっさのことであまり記憶にないんです。毛利探偵事務所の前に立ってもらったら、だいたいこの辺……ってわかるかなって」

「ああ、確かにそうですね。いいですよ、立ってみましょう」

私はカラオケから出て零に電話をかけた。

「友達と別れたあと、駅近くで沖矢さんに出会ったの。ポアロまで送ってくれるって言うから、そっちに戻ってもいい?」

「ええ。お気をつけて」

そんなわけで私はポアロに戻る前に2階に上がって、犯人の背丈の見当をつける。

沖矢さんの、肩辺りかな……。

ではまた大学で、と、会話を交わして沖矢さんと別れた私は1人、夕食を食べている人たちで賑わっているポアロの扉を開けた。

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作者名:まつり | 作成日時:2022年11月8日 10時

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