痕跡2―赤井side― ページ8
「ああ、そうだな――。
だとしたら、車ごと麻薬を全て破棄したと考えるのが妥当だ」
「馬鹿言わないで！ 末端価格がいくらになると思ってんの？アメリカからあれだけの量を密輸、これだけ手間暇かけてあんな大金になるものを簡単に破棄するなんてありえないわ」
ジョディが声を張り上げるのも無理はない。
「まあ、犯罪者のすることだからな。
迎えに来てくれないか？ おそらく今日中に事件は片付くよ」
「ちょ……あのね、警察とFBIがこれだけ時間かけて必死になっているのに何も出てきてないのよ。それを今日中っていったい――」
出かけるなら身支度が必要だ。
ジョディのクレームは長引きそうなのでスマホを切り、俺は窓から阿笠邸の様子を覗き見た。
さっきまで子供たちと無邪気にボールを蹴っていたAは、子供たちが楽しそうに食事をとるのを眺めながら――泣いている様子に胸が痛む。
過去を思い出させてしまったのだろうか。
彼女がこのままそっと秘密裏に生きていくしかないと思い込んでいた、あの日々を。
君の過去を変えてあげる力は俺にはないけれど――そうだな。
君にこれから未来につながる知り合いを、少しは増やしてあげられるかもしれない。
最初の一歩を踏み出せば、きっとそのうち歩き方を覚えられる。
同級生や幼馴染は難しくても、友達や知り合い、近所づきあいくらいはできるようになるさ。
そうなれば、仮に――その時に俺が傍に居ない世界だったとしても、もう、問題ないだろう。
今日のバーベキューがその第一歩になったのなら、今夜は祝杯でもあげようか。
そんなことを思いながら着替えを済ませ、手入れの行き届いた愛用のライフル AI L 96A1を手に取った。
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作者名：まつり
| 作成日時：2022年5月19日 15時
