バーベキュー5 ページ3
哀ちゃんはしばらく、走り回る子供たちを見つめていた。
その横顔には『羨ましい』と書いてあるようにも見える。
「哀ちゃんは、入らないの?」
「そうね、今日は気が乗らないだけよ」
過去を懐かしむような、何かを取り戻したいような、そんな空気を瞳の中から消してそういうと、立ち上がって阿笠博士の元へと駆けだしていた。
私にはただ、その後ろ姿を見送ることしかできなかった。
「みんなー、そろそろ準備できるわよ」
「あ、わりー、灰原」
そういうコナン君の耳元で哀ちゃんがそっとささやく。
「〇〇君、今日は午後からキッドと対決するんでしょ?
いい加減にしないと体力持たないわよ、子供じゃあるまいし」
「心配すんなって」
けらけらと楽しそうに笑うコナン君は子供そのものだ。
最初の言葉、彼女の声は聞こえなかった。
私が遠くから勝手に唇の動きを読んだだけ。
だけどあれは、「コナン君」でも「江戸川君」でもない動き。
――しいて言えば、『クドウくん』だろうか……。それってどういう……。
「沖矢昴」の正体が「赤井秀一」であるのと同様、「江戸川コナン」の正体が「クドウなんとか」ってことなんだろうか。いや、まさかね。
私は哀ちゃんに見つからないように自然に目をそらし、野菜を運んでいる阿笠博士に声をかけた。
野菜を切って、解凍できたお肉を焼いて、炭火で焼いて食べる――
皆で楽しそうに、和気あいあいとする食事って本当にあるんだなー。
――『フィクションの世界の話だと思ってた』 記憶の中の私が言う。
「A……さん?」
子供たちが楽しそうに食べるのをただ眺めていたら、お肉をひっくり返していた哀ちゃんが私を見上げて驚いた声をあげた。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月19日 15時