疑惑5 ページ28
「昨日、飲みに行ったんですよー!割と都心の方。昨夜はほら、雨がひどかったから傘さしてましたけど――。でも、あの黒い服とか歩き方とか、背の高さとか、指に挟んだ煙草とか、絶対に赤井さんだと思うんですよね」
しょっちゅうその姿を見ていたファンが言うので説得力がすごい。
「へぇー……」
シュウがそんな今までと同じ姿でどこかに居るなんて夢にも思わなかったので私はびっくりする。
今日も雨の予報だったから、行ってみようとは思わなかったけれど、それでもつい詳細な場所を聞き出してしまう。
.
昼食が終わった後、総務部のユカちゃんがちょっと深刻な顔で声をかけてきた。
「昨日、彼氏と一緒に居た?」
「ううん……。昨日はちょっと一緒じゃなかった……」
「じゃあ、やっぱり見間違いじゃないのかも。昨日、見たんだよね……Aの彼氏。すっごく美人なお姉さんと一緒に歩いていて……。
そりゃもう、雨だったから傘はさしてたけど?
見間違いかなとも思ったんだけど……いやまあ、見間違いかなとは思うんだけどさ。なかなかいないじゃん? 金髪で褐色の肌を持つ長身細身のイケメンなんて……」
ひどく言いづらそうだった。
私はそれも詳細に場所を聞き出した。
探しに行くべき?
でも、昨日と同じところに今日もいるとは限らないし、そもそも一緒に居た人は仕事相手かもしれない。
――探し出したところで、浮気であろうがなかろうがそれを認めることなんてないだろうし――
「零?」
私は電話をかけてみた。ワンコールで出てくれる。
「A、元気にしてる?」
「うん。零は?」
「心配ない。元気だよ。今週はちょっと帰れそうになくて……。蘭さんのところにお邪魔している?」
「うん、大丈夫。毛利さんのところに居るよ。無理しないでね。帰ってくるの待ってるから」
「――ああ。じゃあまた」
零の方から電話を切るなんて、珍しい。
ひどく胸騒ぎがしたけれど、何ができるわけでもなかった。
タイミングよくか悪くか、人事部から「いい加減有給取って」という連絡がきた。ずーっとメール来てたけどスルーしてたんだよね。休みを詰め込むスケジュールを組み立てるのが面倒で。
上司からも「今月中に5日休んで。10日でもいい」とかいう無茶ぶりが来た。
――どうしよう。私はカレンダーとにらめっこしながら、頭の中をフル回転させる。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年10月6日 10時