モーニングコーヒー2 ページ42
秀一が無遠慮に自分の上を横切って腕時計を手に取る私をそのまま見逃すはずもなく、すぐに腕の中に抱き寄せられ腕時計は一瞬のうちに取り上げられてしまう。
「Aは本当に時計が好きだな。
買ってやると言っているのに」
ということは、私は以前からこんな癖があったということなのか。
「秀一がつけている時計が好きなだけ。私は腕時計なんてつけません」
「ほう、どうして?」
「邪魔だから?」
そういわれてみると何故だろう。理由はわからない。
「スマホがあれば時間なんてわかるし――。
そういえば、本当に私に苗字をくれるの?
本当は私のもともとの名前を知っているんじゃないの?」
「Aは秘密主義だったからな」
仮にそれが事実だとしても。
それを真に受けて、家に上げる女の素性を調べないような迂闊(うかつ)な人ではない。一週間も一緒に過ごしていれば、そのくらいのこといくら私にでもわかる。
見上げれば、深みがかったエメラルド色の瞳が優しく私を見つめていた。
「朝からそんなに情熱的に誘ってくれるなら、お応えしないわけにはいかないが」
額に押し当てられた唇は、甘くてどこまでも優しい。
うっかり流されたらせっかくの早起きが台無しだ。
私は熱いモーニングコーヒーが飲みたい。
するりと腕の中を抜け出した。
「コーヒー飲みたい。シャワー浴びてくる」
「君は自分の過去は知りたくないと、ボウヤにも言ったそうじゃないか」
ベッドから降りる直前の動きを、彼の低い言葉が止めた。
「――探偵ってもっと、口が堅いのかと思っていたわ」
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月13日 17時