愛しい恋人1―赤井side− ページ34
背伸びして抱き着いてきたAをぎゅっと抱きしめ直し、髪にキスを落とした。
Aが気持ちを素直に言葉にしてくれるなんて、珍しい――
それにしても、記憶を失った後の彼女は、本当に屈託なく笑う。
引きずってきた過去の重さがどれほどのものだったのかと、こちらの胸が痛くなるほどに。
翳りのないとびきり上等な笑顔を、いつまで独り占めできるのだろうか。
『私には家族なんていないんです』
あの日酔いつぶれた彼女は、ひどく寂しそうに笑ってそういった。
『幼馴染も友達も恋人も職場仲間も同級生も――何もなくって』
深夜2時の公園でランニングや筋トレをしている彼女を見かけたのは、自分のライフワークと近かったから。
いくら沖矢昴の姿をしていても、昼間不用意に外出して多くの人と接触するのは避けたい事態だ。
しかし、引きこもっていては身体がなまる。
そう思っておそらく誰もいない深夜のランニングを始めたある日、俺は彼女を見つけた。
彼女は「俺と同じように孤独だ」と思ったのは間違いだった。
俺以上にずっと深い、孤独の海に溺れていたのだ。
『人の役に立てるんだったら、いつ死んでもいいかなって思ってるんですよ』だから毎晩走ったり筋トレしたりして体鍛えてるの、昴さんはどうして? と、あまりにも淋しそうに笑う姿から目が離せなくなったのはそれほど遠い昔の話ではない――
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月13日 17時