愛しい恋人2―赤井side− ページ35
沖矢昴は仮の姿――
自分のことを死んでしまった人間だと実感するまでにそれほど時間はかからなかった。それは、偽装死したことのある人にしかわからない特別な感情ではないだろうか。
ゴーストとして街をさまよっていなかったらきっと、Aを見つけることなんて出来なかった。
なぜなら、Aこそゴーストだったから。
ある理由で親から出生届を出してもらえなかった娘。
親は「愛していたから」「守るために」彼女の存在を秘密にした。
そのために、彼女は確かに守られて誰かに命を取られることはなかったのだろう。
一方で、早くに親と離れ戸籍を持たずにこの国で過ごさなければならなかった彼女の孤独を思うと、胸が痛む。
沖矢昴がどれほど孤独でも、赤井秀一には家族がいる、職場もある、信頼できる人たちも――確かにそこにいるからだ。
だから、Aに対して本当は別人だと名乗るまでに時間がかかった。
それを告げた次の日、彼女は重傷を負い病院に連れていかれたと知ったときに、『身を投げた』と思い込んで疑うことをしなかったのは俺のミスだ。
ボウヤが持ち込む情報はいつだって正確だ。
Aは哀しみに身を任せ、自ら命を投げ出したのではなく、事故に合いそうな少年を救っただけだった。
『少年を助けるために、自分が死んでも構わない』とは思っていたかどうか、気になるところではあるが――。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月13日 17時