美術館の下見2 ページ22
『本当にお好きなんですね。一日中でも眺めていられそうですね。Aさん』
あれは、ルネ・マグリット展に出向いた時だ。
ふと記憶がよみがえった。
私はルネ・マグリットの青い空の色合いが本当に好きで、どうしようもなく好きでこれだけは見逃せなかった。
都会の美術展になんて行きたくないというかと思ったが、珍しく彼は一緒に来てくれた。
『ごめんなさい、〇〇さん。退屈だったら外で待っていて?』
私は彼を見上げてそう言った。
『いいえ、私なら絵を見ているあなたを一日中でも見ていられますからどうぞ気にしないでください』
砂を吐きそうなほど甘いセリフを口にするのは、彼にとっては日常だ。
いちいち、めまいを覚えていては付き合っていられない。
それに、そう。
私はそんな彼のことが、本当に、好きなんだから――
メガネとダークスーツがよく似合う、微笑みを絶やさないあの人のことが――
でも、おかしくない?
じゃあ、今私の恋人だって名乗っている秀一って誰?
二人の姿は、どうしてもリンクしない。
声音も口調も重ならない。
胸の奥がぎゅっときしむ。
++++++++++
「鈴木相談役、今回もまあ派手な舞台を用意しましたねぇ」
「何の連絡もしてないのにどこからかぎつけたのやら、中森警部殿。警察は暇なんですなぁ」
私の思考は、どたばたとやってきた刑事たちと次郎吉さんとの皮肉の応酬に邪魔された。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月13日 17時