自信過剰な彼氏7 ページ37
夜の散歩はとても私の心を穏やかにしてくれた。
黒く見える海が、工場のライトに照らされて優しく光っている様子に引き込まれそうになる。
「わあ、工場の夜景を見る船って楽しそう」
自由に歩き回っていた私は、沖に見える船を指さした。
「Aさん、足元に気を付けて」
私よりずっと後方で私の様子を眺めていた――あるいは、夜景を見ていた――もしかしたら別の何かを見ているのかもしれない――昴さんがぎりぎりまで海に近づこうとする私をすくうように背後から抱き寄せた。
――いわれて気づくけど、私は本当にあと少しで舗装されている道路から足を踏み外しそうになっていた。
「今度、乗船してみます?」
「いいの?」
「もちろん。姫の仰せのままに」
「でも、乗船予約とか――」
名前いるよね? いや別に、いちいち本名の確認をされるわけじゃないかもしれないけれども。
「その気になればパスポートを作ることだって造作もないことです。
Aさんのものだって、いつでも調達しますよ」
「――本当に?
それって実は昴さん、私のフルネームを知ってるってこと?」
「どんな名字がいいですか? ああ、いっそ沖矢にしましょう。
沖矢A、ぴったりじゃないですか」
これは名案と、昴さんは楽しそうに笑う。
冗談めいた口調は、まさかプロポーズの類ではない――と思いたいけれど。
ミステリアスな優しい口調から真意をつかみ取ることができないでいた。
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作者名:まつり | 作成日時:2022年5月13日 17時