Columbine. (ページ8)

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「お疲れ様です。」
「おつかれー。」

ようやく業務が落ち着いたのは、19時頃。帰ろうと身支度をしていた俺に声をかけたのは、一緒に残業していた後輩だった。

「景瑚くん、飲みに行きません？」

明日休みだし、とワクワクした目で俺を見るその目はウサギみたいで、どうにも断る気になれない。スマホを見ても彼女の既読はなくて、どうせ今日も遅いんだろうとため息をついたあと後輩の誘いに乗った。

「景瑚くん、彼女さんと住んでるんですよね？」
「あれ、言ったことあったっけ？」
「女子社員が噂してますよ、みんな脈なしだって。」

笑いながらビールを飲んで、なんとなく誤魔化した。

「仕事は？何してる人なんですか？」
「んー、まぁ、普通だよ。普通の、会社員。」

コンビニの店員と付き合ってるなんて、口が裂けても言えない。もしこの噂がまた広まって、親父の耳にでも入ったら。そう考えるだけで寒気がする。

「景瑚くんの彼女になれるなんて、前世で徳積んだんですね。」
「なにそれ、俺そんないい人間じゃないでしょ。」
「だって、いつか社長夫人になれるんですよ？」
「…俺が社長になれるかなんて、まだ分かんないよ。」

親父の会社に入ったのは、コネでもなんでもない。
散々俺をバカにした親父を見返してやりたくて、なにも言わず入社した。それを喜んだ親父の姿には、息子なりに嬉しさもあったけど。

「社長でしょ、息子なんだから。」
「なに、翔也も俺が社長になるから媚びてんの？」
「まさか！俺、出世とか全然興味ないっす。」

笑いながらそのまま飲み進めていると、いつの間にか時計は22:30を指していた。

「そろそろ帰りますか。」
「ん、じゃあ翔也、ごちそうさま。」
「え！俺払うの？やだ〜」

そう言いながらしっかり割り勘にした翔也と店を出る。帰る方向は同じで、ゆっくりと歩きながらたわいもない話をしていた時。

「あ、」
「ん？」

翔也が、居酒屋を見ながら止まる。

「友達見つけました。」

そう言って指をさした方向を見ると、男女が仲睦まじく酒を飲みながら話し込んでいる。

カップルに見えるけど、カップルじゃない。そう確信できたのは、その男女の女性が彼女だったから。

「碧海〜！！」

呆然とする俺の横で、翔也は手を振りながら大声を出す。その名前に聞き覚えがあった俺は、今度は男性の方に視線を移した。

碧海。金城碧海。
その名前を聞いて、顔を見た途端。あの頃の彼女が、鮮明に蘇った。

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