Columbine. (ページ5)

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彼は、自分を"碧海"だと名乗った。
聞けば彼は景瑚の友達の弟で、昔よく遊んでもらっていたらしい。街で景瑚を見つけた時、隣に居た私を「A」と呼んでいたのを見かけたと。それで、勝手に知り合った気になっていた、と。

「覚えてる？とか、あり得ないこと聞いてすみません。」
「それ以前に、それめっちゃ気持ち悪いですよ。」
「あ…そ、っすよね。すみません。」

普通に気持ち悪いし、普通にあり得ない。でも彼があまりにも申し訳なさそうにするから、何故か許してもいい気がしてしまった。

「私も名前教えてもらったんで、おあいこにしてあげる。」
「じゃあ、本当に友達になってくれます？」
「開き直り早すぎますけど、まあ…いいですよ。」

やった、と子供みたいに喜ぶ彼がなぜか面白くて、笑いながら時計を確認した。

「じゃあ、またね。」
「あの、景瑚くんには俺のこと内緒で！」
「え、なんで？」
「俺の姉ちゃんと景瑚くん、仲悪いから。」

"姉ちゃん"

その言葉に、少しだけ困惑してしまう。

「碧海くん、苗字なんて言うの？」
「金城です、金城碧海。」

帰ってすぐ、ソファで寝ていた景瑚が起きないように、そのまま寝室に入った。クローゼットを開けて、奥にしまってあった段ボールから一冊のアルバムを取り出す。

"金城はるか"

卒業アルバムに載っているその名前を思い出すのは、数年振りだった。
私と景瑚は高校の同級生。高校の時は全く接点がなく、景瑚ははるかさんと付き合っていたのを覚えている。

"ほんと美男美女だよね。"
"結婚したらめっちゃ可愛い子産まれそう〜"

地味だった私には違う世界の話。それでも、廊下や教室で2人を見ればみんなと同じように"美男美女"だと思っていた。

別れた理由は知らない。
大学に入って、景瑚が私に声をかけた理由も、知らないまま。

「A？」
「っあ、ごめん、起こした？」

後ろから聞こえた声に、慌てて振り返る。寝ぼけ眼を擦った景瑚が、私の隣へとしゃがんだ。

「卒アル？なんでそんなの見てんの？」
「ちょっと、気になることあって。」
「俺にも見せて、昔のA見たい！」

知ってるじゃん、と言いながら景瑚にアルバムを渡すと、アルバムの中の私を見つけた景瑚が笑う。

「ほんと、Aって垢抜けたよね。」
「この頃は勉強ばっかだったから。」

今更、どうして、なんて。
考えるのをやめてしまうほど、こうして笑い合う時間は久しぶりだった。

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