Columbine. (ページ17)

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「A、別れよう。」

歩いている間も気持ちが悪いほどの沈黙で、部屋に入ってその沈黙を破ったのは彼のその一言だった。

「親父、認めてくれなかった。」
「うん。」
「それどころか、会社も辞めろってさ。」

着ていたジャケットを脱いだ景瑚は、そのままソファに深く腰掛けて私を見る。その隣に座って、彼の言葉を脳内で繰り返して、視線を向けた。

「別れたら、辞めなくていいんじゃないの？」
「…誰のせいだと思ってんの？全部Aのせいだよ。」

向けられた視線。それは、感じた事のないほどの怒りが滲む視線。怒りだけではなく、悲しみも含まれたような視線に、私は思わず唾を飲んだ。

何も言えずに居る私。景瑚は、震える手でポケットから何かを取り出した。

"お金が大切だけど結局愛がないと無理"
"彼氏とお金、どっちが好きなん？"
"お金大好き〜"
"彼氏がお金無くなったらどうすんねん"
"お金がない人なんて無理〜"

聞こえてきた、どこか聞き覚えのある声。そして、私が言った覚えのあるセリフ。まるで私が、私の気持ちを言っているように加工されている音声に、ハッとした。

「なに…これ。」
「は？Aでしょこれ。」
「私、だけど、どうして…」
「結局、社長の息子の俺がよかったんだね。」

立ち上がった景瑚。私は咄嗟にその腕を掴んで引き留めた。

「違う！これ、何？私言ってない。」
「言ってんじゃん。Aの声じゃん。」
「私の声だけど…景瑚の事じゃ、」
「もういいよ、面倒くさい。離して。」

振り払われた手と、去っていく背中。
言い訳も弁明も出来ないまま離れていく姿に、私は項垂れるように床に座り込んだ。

「今月中にはアパート引き払うから出てってよ。」

玄関を出る前に彼が言った言葉。それを咀嚼して理解することも放棄した私の脳内で考えるのは、ひとつだけ。

なんで、どうして。
こんな風に終わりたいはずなかったのに。

加工された会話。それでも言った覚えのあるセリフは、私以外にひとりしか知らないはずだった。音声の中で聞こえた声は、間違いない。

"彼氏とお金、どっちが好きなん？"

どうして、純喜がこんなことをしたのかは分からない。もしかしたら突然バイトを辞めた理由が、これなのかもしれない。

分からない。もう、何も。
私が頼れるものは今、彼しかない。

流れる涙を拭いながら縋るようにかけた電話が、繋がる事はなかった。

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