0012 you ページ12
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泣き疲れて、いつの間にか眠っていた。今日が土曜日だったららこんな泣き腫らした顔を誰にも見られずに済んだのに。
いつもより遅く家を出て、隣の家を3軒分眺める。以前のように4人で登校も、自然となくなってしまっていた。
純喜のことを好きなんて、認めなければ良かった。
あの時、"そんなわけないじゃん"と、笑って誤魔化せていたら。思ったとおり、この関係に終わりなんて来なかったのに。
「A、ちょっと話せる?」
学校に着いてすぐ、先に着いていた景瑚に声をかけられた。彼は泣き腫らした私の顔を見て驚いていたけど、すぐに戻って微笑む。
頷いて、連れられるまま屋上へ。しばらくの沈黙のあと、景瑚が口を開いた。
「ここんところ、ちゃんと話してないよね。」
「うん…そうだね。」
「ごめんね。俺、ちょっと色々思い詰めてて。Aやはるかの事避けてた。純喜くんのことも。」
いつも元気な景瑚だって、悩みのひとつやふたつあるだろう。今までだってきっとあったけど、それを私たちに見せなかっただけ。
「でも、もう大丈夫!」
にぃ、っと歯を出して笑う景瑚。ピースをした指先が少しだけ震えているのが気になったけど、そこを追求することはしなかった。
「だからさ、Aも悩みがあったら言ってよ。」
「私は…悩みなんてないよ。」
「んー?だって昨日、泣いたみたいじゃん。」
そう言って、細く長い指が私の瞼に触れる。腫れているせいでいつもより感覚が鋭くなって、思わず目を細めた。
「もし…さ、」
「好きな人に、好きな人が居たら…景瑚はどうする?」
「私にとって、どちらも大切だったら」
「ちゃんと伝えないまま、諦めた方がいいのかな」
勘のいい景瑚だから、きっとこれだけで全て分かってしまうと思う。案の定、彼は驚きもせずに私の頬を両手で挟む。
じっと私の顔を見つめる景瑚。いつになく真剣で、それでも優しく、言葉を続ける。
「俺はさ、失うのが怖くて、何も出来なかった。」
「好きだとも言えなかったし、言えないまま諦める事を選んだ。」
「でも、Aには、そうあってほしくない。」
頬にある大きな手が、少しずつ強くなる。
「だから、気持ちはちゃんと伝えた方がいい。」
そう言った景瑚は、ぽんっと私の両頬を叩いて手を離す。
景瑚の言葉は、すんなりと私の心に届いた。ふぅ、と息を吐いて、意を決して景瑚を見上げる。
「私、もう一回、ちゃんとフラれてくるね。」
to be continued ...
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作者名:マツ子 | 作成日時:2022年10月1日 1時