ヨコハマの歩きかた (ページ9)

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虎と探偵社8 ページ9

木箱に座る太宰が、敦を見下ろしている。その表情は、背後から差し込む月光によってよく見えない。

「君が街に来たのが2週間前。虎が街に現れたのも2週間前。
君が鶴見川べりにいたのが4日前。同じ場所で虎が目撃されたのは4日前。
国木田くんが言っていただろう？武装探偵社は異能の力を持つ輩の寄り合いだと。
巷間には知られていないがこの世には異能のものが少なからずいる。その力で成功する者もいれば力を制御できず身を滅ぼすものもいる。
大方施設の人は虎の正体を知っていたが君に教えなかったのだろう。
君だけがわかっていなかったのだよ。

君も『異能の者』だ。現身に飢獣を降ろす、月下の能力者。」

太宰の声に呼応する様に、敦の躰が変貌していく。

眼は爛々と光り、白く大きな体から大きな咆哮が発せられる。
大きな虎と化した敦は、目の前の太宰に狙いを定めた。

虎が接近する。高速で振り下ろされた大きな爪を、太宰はすんでのところでかわした。
白煙がのぼる。虎が着地した床には、大きな放射状の跡が刻まれた。

再び虎は太宰に突進する。それも太宰はかわしていく。
「ちょっとA！手伝いたまえよ！私ばかりが逃げて、君は休んでいるし…」
Aは澄ました顔で目を逸らす。無視するつもりのようだ。
「はぁ〜〜？」
太宰は不満そうな声を出す。
しかし、何か思いついたのか悪い笑みを浮かべると、地面の破片を手に取った。

「せいっ」
太宰が破片をAの横の木箱に投げる。ガンッと大きな音が鳴った。
その音に反応して、虎が振り返った。その眼に驚いた顔のAが映る。

狙いがAに移った。虎はAの方にに走り出す。
振り下ろされた前足を避けるA。大きな爪にかすりでもすれば、命はない。
「うっっわ！！ありえない！自分でやれ自分で！！！！」
Aは逃げながら、叫ぶ。その背後に虎。

背後から振り下ろされた爪は、いつの間にか抜かれた刀に受け止められた。
「これ敦くんだから傷つけられないじゃん！何とかしろよ、太宰！！」
強い力に、Aの顔が歪む。そのまま相手の力を利用して、受け流した。

「お返し！！」
Aが足元の破片を太宰に向かって投げた。
「ぉうわっ！」
太宰が避ける。破片が砕け散って派手な音が鳴った。
「避けられていなかったらどうするつもりだったのか…」
太宰はぶつぶつ言いながら、自分に狙いを定める虎に目を向けた。