らずべりー。9 ページ9
____ Itaru ____
18時。
夏は明るかったのに、冬はどうしてこんなにも暗いのだろう。
なんとも言えない、肩にのっしりと乗っかった気だるさと一緒に、寮の扉を開けた。
「 …ただい……………ま……… 」
玄関の、冷たいであろう床に直接、
べったりと座って俯いていた監督さんが、そこにはいた。
「 …え、ちょ、監督さん……？
何してんのこんなとこで… 」
家の中とは言えど、寒い。
息を吐けば、それは真っ白になった。
「 …いたるさ…… 」
俺を見るなり、監督さんは大粒の涙を溢す。
「 っは…？…え、まじどうし……＿＿＿ 」
＿＿＿ どうしたじゃない。
俺のせいなんじゃないのか？
今さら、そう思った。
目の前で、泣く監督さんの原因は、間違いなく俺だ。
「 …ごめん、悪かった
今日の仕事、入ったの急だったし、監督さんに言う暇無かったから… 」
しゃがんで、ぼろぼろと泣く彼女を慰めて。
ズキズキと痛む、俺の心。
「 監督さんの、せいじゃないから
言わなかった俺のせいだから 」
小さな背中に、自分が着ていたコートを掛けて
その背中を擦った。
「 …とりあえず、中行こ、な、監督さん
ここじゃ風邪引くから… 」
少し遠くの、明るい扉の向こうとは違い
ここは暗く、静かだった。
酷く、違う世界だと、思われるくらい。
「 …ごめん 」
罪悪感で押し潰されそうな心を
なんとか抑えて
突然別れ話をされて
次の日は、目の前で泣かれて。
俺はホントにどうしたらいいのかわからない。
渦を巻くいろんな感情が、今にも沸騰しそうだった。
「 …監督さ＿＿＿ 」
「 監督ちゃん、至さん帰って……、って
おかえんなさい至さん 」
泣き崩れている監督さんを奪い取るように抱き寄せて
とんとん、と優しく背中を擦ってから
万里は俺を軽く睨んだようにも見えた。
「 ……万里、お前… 」
俺に、万里を止める資格はない。
万里を怒る資格も、監督さんを奪い取る資格も、何もかも。
監督さんの隣に俺がいることでもたらされるのは
きっと、" 不幸 "ばかりなのだから。
「 …至さん 」
「 …仕事で疲れた
今日飯いらないから 」
俺には結局、彼女を突き放すことしかできない。
Title 9不器用な、アイのカケラ。
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