らずべりー。37 ページ37
____ Itaru ____
深いため息を吐いた。
手元の紙コップから、ゆらゆらと湯気が立ち上る。
頭の中をひたすら支配するのは、後悔か、緊張か、安堵か。
ただどうしようもなく、ため息。
「 茅ヶ崎 」
急に呼ばれた名前に、思わず声が出そうになる。
場所も場所。状況も状況。
俺の中の警戒度はまさにMAX。
「 …何ですか
会社で話しかけてくるなんて珍しい 」
渇いた口の中に珈琲を流し込んで、潤す。
でもそれも意味を為さずにすぐ渇いていった。
一体この人は俺に何をしたいのか。
というか、何を目的に動いているのかもわからない。
この人はチートの塊だ。
一言で、意味不明。
「 いや、珍しく茅ヶ崎が真っ青な顔してるから
何事かと思って 」
「 そんなに顔色悪いように見えます？
徹夜明けだからですかね 」
「 会社でもゲームか？
普段しない癖してスマホ握って 」
「 …… 」
がくんと肩を落とし、じっとりと先輩を見上げる。
先輩は愉しそうに笑って俺を見下ろしていた。
「 …先輩も万里も、どうしたいんですか 」
ぽつりと、自然に出た声。
自分で、それに驚いた。
そして意思もなく、その言葉は続く。
「……あの人が好きなら、あんたらが好きって直接言やいい
何でいちいち俺に関わるんですか
……何も、…知らないくせに」
溢れるこれは、何だ
いいや知ってる
大人げない
分かってる
この人に言うことも、多分間違ってるんだろう
救いようもない、バカ。
「 ……その顔で、それ、言うんだな 」
哀れ、同情、いろんな感情。
いい大人が、みっともない。
「 …、誰のせいだと思ってるんですか 」
俯いて、乱雑に、頬を拭った。
知ってる、先輩のせいでも、誰のせいでもない
自分自身のせいだってことも
「 …あれは、
俺がしたかったこと、かな
勝手な俺のワガママ 」
「 ……子供かよ
…泣いたとか言わないでくださいよ
俺の面目丸潰れるんで 」
「 お前次第かな 」
「 …、脅しのつもりですか 」
見上げた俺に、先輩はぼやいた。
「 …泣くとこ見られたくないんなら、もうちょっと場所選べよ、茅ヶ崎
…ま、…監督さんだけだろうけど 」
そんな嫌みのような独り言を、俺は涙を拭って聞こえなかったふりをした。
Title 37オトナの攻防と涙のワケ。
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