らずべりー。35 ページ35
____ Heroine ____
その日も、いつもと変わりない朝だった。
千景さんがやたら優しくて、キッチンに立ち皆の朝御飯の片付けをしてくれている。
変わっていると言えるのはそれくらいだろうか。
彼に理由を聞けば、約束だから、と意味深に笑う。
何の約束か問い質せば今度は、いろいろ、とはぐらかされた。
そうこうしていると、ご飯を食べ終わった至さんがひょっこり顔を出して、千景さんを見るなり作り笑いを貼り付け逃げるように去っていく。
そんな至さんを、つまらなそうに、何故か恨めしそうにさえ見える何とも言えない表情で見送ったやいなや
至さんは逆走してきて私に紙切れ1枚を手渡した。
そうして次は、いってきますと口にし、出ていく。
手渡された紙を不思議そうに眺めている千景さんに、ここで見るべきか悩んでいると、ポケットのスマホが揺れた。
逃げるように食い入って見ると、”至”との送り主で、LIMEが届いていた。
至先輩の前で読まないで
至1人で読んで
一体どんな極悪非道な内容なのだろうと不安になりつつ、それをポケットに捩じ込む。
そうして千景さんに笑って見せる。
千景さんはつくづく不満そうな顔をした。
「 なるほどね
秘密ってわけ 」
「 千景さんに隠し事はなんか怖いです
しれっと盗み見そう 」
「 いくら俺でも、内緒って言われたことに首は突っ込まないよ
ま、俺が関係してることなら別だけど 」
皿を手に、千景さんはそう言って談話室へ出ていく。
今起きてきた学生組を笑顔でしごいている。
それに逃げるように、万里くんはひょいと皿を置きに来て私に気づき、渋い顔をした。
「 あの人怖ぇんだよ、皿投げてきそー 」
「 暴力はしないよ、千景さんは 」
「 まーな 」
けらけら笑った万里くんが、急に言う。
「 監督ちゃんは監督ちゃんの好きなことしろよ 」
「 ……、え？ 」
口は笑っているが、目は笑っていないような気がした。
でも、優しいような、そんな雰囲気だった。
「 俺たちに縛られんなってこと 」
訳がわからない忠告を、私が理解するまで。
それに、果たしてどれ程の時間を要したか。
きょとん、としている私に、万里くんはいってきます、と一言告げ、またいつものように笑った。
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Title 35不意の気遣いに、1枚の紙切れ。
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