らずべりー。4 ページ4
____ Banri ____
湯気が立つマグカップ2つを手に、
肘でドアノブを開け、背中で扉を開ける。
彼女の涙は止まってたけど、表情に笑顔はなかった。
「 さてと、監督ちゃん 」
珈琲を手渡して、ベッドの横の椅子に腰掛ける。
ベッドに座った監督ちゃんは、何を聞かれるのか、少し恐れているようにも見えた。
「 監督ちゃんって甘いもん、好き？ 」
「 ………ぅえ…？ 」
「 っはは、変な声 」
俺が最初に始めたその会話が予想外だったようで
監督ちゃんは目を丸くさせた。
＿＿＿ 目の腫れは、治まった。
「 んで？
…好き？嫌い？ 」
「 …ええと、好き。
臣くんが作るお菓子、いつも美味しいし… 」
「 よかった
臣の菓子は旨いよな、わかる 」
「 うん、」
ごそごそと、珈琲と一緒に持ってきた紙袋から箱を出して、開けて見せた。
小さなタルトに、イチゴ、ミカン、ブドウにメロン。
いわゆる、フルーツタルト。
「 …うわぁ……、綺麗なタルト…
これ、駅前の凄く高いケーキ屋の…！ 」
「 やるよ、それ
珈琲に合うといーけど 」
「 …え、…ホントに…？
というか何で…？ 」
タルトを前に目を輝かせるところは、本当に女なんだなぁ、なんて思う。
普段はカレー星人極まりないが。
「 朝、監督ちゃん元気なかったろ？
俺も食べたかったし。一口くれたらチャラでいーからさ 」
「 一口だけでいいの…？ 」
「 ん、あとは全部監督ちゃん食えよ
せっかく買ってきたんだし 」
小さなフォークで刺して、口にいれたタルトは妙に酸っぱかった。
でも、甘かった。
「 …凄く美味しい、ありがとう万里くん 」
頬を苺のように赤くして、いつも通りとはいかない、控えめな笑みを浮かべる。
「 …… 」
「 ば、万里くん…？ 」
カメラを向けた先には、少し戸惑ったようにしながら、
タルトをゆっくり口にする監督ちゃんの姿。
「 ……可愛い 」
ぼろっ、と口にした、自然な本音。
「 何か言った？」
「 わり、監督ちゃんやっぱ女の子だなーってさ 」
「 えええっ…、恥ずかしい…… 」
「 ははっ、もう見ねーから 」
少し赤らめてそらした、熱い顔。
＿＿＿ ずっと、このままだったらよかったのに。
.
Title 4フルーツタルトの思わぬ幸せ。
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