らずべりー。15 ページ15
____ Banri ____
「 …… 」
暗い部屋。
少し、というかかなりうるさい兵頭のイビキ。
「 …うっせぇぞ兵頭…… 」
どうせ寝ているから聞こえもしないけど
何となく口にして
自分のなかに溜まった妙なだるさと、罪悪感を紛らそうとする。
不意に横切る記憶が、それらの元凶。
＿＿ 『 …誰がそんなこと言った 』
至さんはきっと、まだ監督ちゃんの事が好きだ。
＿ 『 …俺がどう思ってたって、監督さんにも、万里にも、関係ないだろ 』
関係ないわけあるか。
感情があるのに、それを打ち消して
他人の為に、必死で我慢するのも大人ってわけなのか？
だったら、それは間違っていると思う。
確かに、我慢しなきゃいけない場面だってある。
至さんなら、会社でも多々あることだろう。
でも、それでも今は。
監督ちゃんに対する感情があるのなら
「 …… 」
そしてきっと、監督ちゃんも。
どっちも大人ぶって、言いたいことを言わない。
大人のふりした、未熟者。
どうして大人というものは、こんなにも面倒なのだろう。
もう少し楽には、生きられないものなのか。
「 ……寝らんねぇ…… 」
もやもやする頭は、転がれば更に悪化する。
静かで、兵頭もいるけど
もはや一人のようなこの空間は、物思いに耽るに適し過ぎていた。
監督ちゃんには、笑顔でいて貰いたい。
至さんと一緒にいる頃の監督ちゃんは
色々悩んでいたようではあったが、何だかんだで、至さんと隣にいる時が一番、幸せそうだった。
それは、痛いほど、知っていた。
でもきっと、監督ちゃんが幸せになるためには
恐らく今の至さんと同じことを、俺がしなくちゃいけない。
理不尽なオトナの生き方。
窮屈な、オトナの努力。
楽には生きられない、ちょいハードな世界。
…まぁでも、それで監督ちゃんが笑顔になるんなら。
それはそれで、安いものか、なんて。
いつからこんなに人に甘くなったろう。
監督ちゃんを前にしてからだろうか。
何にせよ、あと2日。
あと2日だけでいいから、俺の好きなようにして。
それを過ぎたのなら。
「 ……＿＿＿ 」
あんたの幸せを、望むとしよう。
.
Title 15未熟な木苺の、すっぱい恋の行く末を。
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