Crazy love

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自分のハチマキがないことに気付いたのは、観覧席から藤ヶ谷先輩の姿を見つけた時だった。

先輩の手首に巻かれた青いハチマキ。

あれは私の。

そのまま持っていかれてしまったんだと気付いて慌てたが、今更もうどうしようもなかった。

幸い自分の出番はずっと後なので、それまでに返してくれるのを願うしかない。

ハチマキは表がクラスカラー、裏が学年カラーになっている。
学年カラーは１年生が赤、２年は檸檬色、３年は黄緑。

その為、藤ヶ谷先輩の手首に巻いてあるハチマキが１年生の生徒のモノだと気付かれ、ざわめくクラス席。



「ねぇ、藤ヶ谷先輩って誰のハチマキ巻いてんの？」

「え？１年と付き合ってるってこと？でも藤ヶ谷先輩ってモデルの先輩と付き合ってなかった？」

「ええ、知らない。てか手首に巻くとか意味深なんだけどっ」



クラスの女の子達が騒ぎ出す。

バレたら何て言い訳しようかと焦ったけれど、誰も私のことを気にしたり、見る人はいなかった。

ほっとした反面、これが自分の現実なのだと悲しくもなる。

誰も私のだとは絶対に思わないだろう。

騙されないで、と言った女の先輩は優しい人だと思った。

大歓声の中、陸上競技場のトラックを走る藤ヶ谷先輩。

陽のあたる場所が似合う、大勢の人の中にいるのが似合う、華やかな人。

きっとアイドルの仕事をしている時もそうなんだろう。

たくさんのファンがいて愛されて。
可愛くて素敵なファンの子達に。

私がもっと綺麗で、もっと可愛くて、もっと自分に自信が持てる容姿だったら、素直になれたのだろうか。
先輩を受け入れたんだろうか。

次の選手にバトンを繋いだ後、ハチマキを巻いた手首にそっとキスする先輩。

え....？どうしてそんなこと。

勘違いしたら駄目。

先輩は慣れていない女を勘違いさせることくらい造作もない。

だってそういう仕事で、職業だから。

しばらくすると、クラス席にやって来た藤ヶ谷先輩の姿に、黄色い声を上げる周りの女の子達。



「藤ヶ谷先輩、どうしたんですか？」

「あ、そのハチマキ！」

ざわめく１年生に、



「このハチマキ、トイレの前に落ちててさ、誰のか知らねぇ？」



しれっと嘘を付く先輩に、明らかに安堵したのだろう。笑う１年生。



「それ落ちてたんですか？」

「そう」

「じゃあ私が預かっておきます」



同じクラスの秋場さんが先輩に手を差し出し、



「ああ、お願い。どーもね」



先輩はハチマキをその子に素直に手渡した。

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