Crazy love

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会いたく、なかったのに。
会いたくなんてなかった。

私の心を掻き乱す元凶。

結局初めて出会ったあの教室から、私はずっと熱に浮かされたみたいに現実がよく見えず、分からなくなっていた。

何をしていても先輩のことばかり考えて。

こんなんじゃいつか本当に死に至る病が訪れる。
だからもう止めようと決心したのに。

なのに、どうしてまた。

ギリシャ彫刻のように綺麗な顔を私にぐっと近づける先輩。

キスされる！！そう思って慌てて顔を背けた私の髪から、先輩がするっとはちまきを抜き取った。

え....？



「ふはっ。キス期待した？」

「ち、違いますっ」

「キスなんかしないよ。する理由ないじゃん」



理由がない。

そう言われ、落ち込む自分は一体何なのだろう。
自分でも持て余しているこの感情が本当に嫌で仕方なかった。



「意地っ張りだね、A。気の強い女は嫌いじゃねーけど、素直じゃない女は嫌いだよ俺」



小馬鹿にしたように先輩が笑う。
私の内心を見透かしたように。



「ま、関係ねーか、俺の好みなんて」



私は先輩に何て答えるのが正解なんだろう。

自分は独りで大丈夫だと、気丈に強く振る舞うこと？
それとも素直に自分の今の気持ちを全て吐露してしまうこと？

どちらも不正解な気がした。

はっきりとした理由は自分でも理解らなかったけれど、不正解を言ってしまった後の先輩が怖くて、口を開けなかった。

それも先輩を苛立たせ、呆れさせると分かっていても。

正解は、先輩に嫌われたって関係ないと思えばいいだけ。

だけど、私は....



「私....」



その時だった。



「太輔ー！こんなところにいた！ねぇ、入場門に部活対抗リレーの男子は集まれだって」



先輩の元に駆け寄ってきた女の先輩。

その人の顔には見覚えがあった。

中庭で藤ヶ谷先輩と腕を組んで歩いていった女の人。

すらっと背が高く、手足が長くて、顔が小さくて、１つに束ねた長い髪には緩いウェーブがかかっていて、一般人とは明らかに違う華やかさ。

この先輩も芸能人かモデルなのかもしれない。



「ああ、今行くわ。走るの苦手なのになぁ俺」



ぶつぶつ言いながら私に背を向けて歩き出す先輩。

その後を慌てて追いかける女の先輩が、途中でくるっと振り返り、私のことを憐れむように見つめ、声を出さずにゆっくりと口形だけで言葉を発した。



だ、ま、さ、れ、な、い、で、ね。



読み取れた言葉に、苦笑するしかなかった。

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