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これが、幸せというものだろうか。
毎日ではなかったけれど、放課後の学習室でキスを交わし、抱き合い、疲れて眠る藤ヶ谷先輩の隣で勉強をする日々。
時折盗み見る先輩の寝顔は、とても綺麗で。
先輩といる時の自分はいつも夢の中にいるみたいだった。
頭の中が霞がかかっているみたいに現実感がなくて。
それもそのはずだろう。
いつか先輩が、多くのファンを持つアイドルになるのかもしれないと思えば、そんな人と自分が関わっているなんて信じられるはずがなかった。
「先輩、私バイトに行きますね」
バイトに行く時間になり、帰り支度を始める私の腕を先輩が掴む。
「寂しいんだけど」
「バイトですから」
「俺とバイトどっちが大事?」
「それは、勿論先輩です」
けれどバイトをしてお金を稼がなきゃいけないから。
「俺の借金だったら出世払いでいーけど」
「そんなわけに行きません」
確かにバイトするきっかけは先輩の借金返済の為だったけれど、自分のお金があるということは不安定だった心を安定させると気がついたのだ。
気持ち悪い男のいるあの家を出るには、結局お金しかない。
ならば、いつでも逃げ出せるように少しずつでも貯めておきたい。
奨学金で大学に行き、あの家も出れたらどんなに幸せだろう。母も妹も連れて。
でもそれにはお金が足りない。全然足りない。
バイトを増やしたくてもこれ以上すれば、確実に学業に支障が出る。
少しずつ、少しずつ貯めていくしかない。
「何かお前、いい女になったんじゃね?」
「先輩に従順になったからですか?」
「はぁ?どの口が言ってんだよ、従順とか」
それでも先輩はどこか嬉しそうで、楽しそうだった。
「俺も仕事行くかな」
「これから仕事ですか?」
「んー、見栄張った。ダンスレッスン。ここん干され気味でサボり気味だったし。そろそろヤバい」
自嘲めいた笑みを浮かべる先輩に、先輩の生きる世界も色々とあるのかもしれないと思った。
私なんかが簡単に窺い知れるような世界ではないだけに、何も言うことは出来なかったけれど。
「じゃ、またな」
「はい」
具体的な約束なんて存在しない。
連絡手段もない。
それでも私には充分すぎる「またな」だった。
先輩は私が知らなかったことを教えてくれた。
誰かを想う愛しさも、誰かを想う切なさも。
きっとこの頃が2人にとって、1番甘く、穏やかな、優しい時間だったのかもしれない────。
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R(プロフ) - 続編の下書き終わるの待ってます! (2020年7月16日 20時) (レス) id: 6721bb2d67 (このIDを非表示/違反報告)
ミィ(プロフ) - 私の好きな、女性に冷酷な太輔くん、ここにいました!女の子をとっかえひっかえみたいな。ドンジュアンみたいですね。やっぱりハマり役ですね。でも、物語はちょっとツラい展開になってきましたね・・・ (2019年9月14日 0時) (レス) id: 1dbee522b3 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - ayachokoさん» あやちゃん(TT)いつぶりだよっていうくらいの久々更新でごめんなさい。まだ読んでくれていたのですね涙。Fさんイイ男(あくまで自分的好み)に書きたいと思えば思う程出来なくて逃げました笑。ゆるゆるとですが頑張りますね(TT) (2019年9月1日 13時) (レス) id: ba5f8d5732 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - sioriさん» お久しぶりですw 悪い男なFさん私も大好きですが難しいです(TT)でもミュージカルのF様の素晴らしさに触発されたので再び頑張ってみようかと(><)。 (2019年9月1日 13時) (レス) id: ba5f8d5732 (このIDを非表示/違反報告)
ayachoko(プロフ) - 良かった、更新された(涙)ドンジュアンのおかげだね(笑)私も栞ちゃんと一緒でしろたんの描くメンバーみんな大好きです!しろたんが描く悪い男、すごいかっこいいのでこれからも楽しみにしています。 (2019年9月1日 12時) (レス) id: 307c8bd05d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましろ | 作成日時:2018年12月18日 7時