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温泉に浸かり、頭上を美しく舞う蛍を眺めながら、湧き出る温泉の水の流れる音に混じって、鹿威しと言われる添水の竹筒が元に戻る際に石を勢いよくカコンと叩く音と、蛙の鳴く音に耳を澄ましている内に、私は少しずつ落ち着きを取り戻す。
どれだけ広い敷地なのだろう。
他の客が訪れていることすら全く分からない。誰の姿も見えず、声も聞こえなかった。
脱衣所の方から聴こえてくる伸びやかな歌声。
本当に歌ってくれてる。
真面目な子なのだろう。
愛おしさに自然に笑みが浮かんだ。
しばらくその心地良い歌声に耳を傾け、身体を洗って脱衣所に戻れば、バスタオルと綺麗に折り畳まれた浴衣を渡される。
私は千ちゃんに背を向けて素早く身体を拭き、淡い桃色の浴衣を身に纏った。
「A様は初めてのお客様なので今夜は僕の所属する虹桜の方へご案内致しますね」
「虹楼?男の子達の写真を見て選ぶんじゃないの?」
「ここではそんな野暮な選び方はしませんよ」
期待して下さいと言わんばかりの目で見つめられ、私は苦笑するしかなかった。
千ちゃんに連れて行かれた場所は寝殿造と呼ばれる古い館だった。
中央の寝殿に通されると、既に夕食の膳とお酒が用意されており、その前に腰を下ろすと中庭を見ているように言われる。
いつの間にかもう1人、千ちゃんと同じくらいの年だろうか、まだやんちゃな幼さを残した、向こうっ気の強そうな少年が部屋にやってきて、私の前でお辞儀をして隣に座った。
「今夜、お酌をさせて頂く二階堂と申します」
「未成年がお酌?」
私はびっくりして目を見張った。
「そんなことしなくていいから」
「え?僕じゃ気に入りませんか?」
千ちゃんと同じようなことを言い、露骨に顔を曇らせる少年に「そうじゃないの」と首を横に振った。
「お酌はしなくていいから、隣で話し相手になってくれる?」
「ああ、そういうことですね」
途端にほっとした表情を見せる少年に、ここの彼等がお客に気に入られることをどんなに重要視しているのかが理解った。
「二階堂君....ニカって呼んでいい?」
「はいっ」
愛称は距離を詰める為の常套手段。
ニカが嬉しそうに八重歯を覗かせて笑った。
唐突に部屋の灯が消え、代わりに中庭が明るく照らされる。
すると随所に毛皮をあしらった極彩色の着物姿の少年達が、激しい電子ギター音から始まる曲と共に踊り歌い出す。
目の前にいるのは正真正銘アイドルの卵達。
勿論ニカも千ちゃんも───。
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ましろ(プロフ) - clubwonderさん» お待たせしていてごめんなさい;;やっと書き始めることが出来たので....相変わらずちまちま更新になるかとは思いますが、どうかお付き合い下さいませ!! (2018年8月10日 20時) (レス) id: ba5f8d5732 (このIDを非表示/違反報告)
clubwonder(プロフ) - お忙しいのか中々更新されないですね…。気長に待ってるので、このまま終わるという事にはならない事祈ります!続きが気になって仕方ないです! (2018年7月28日 1時) (レス) id: 697db724dd (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - みゆさん» 最近なかなか更新出来ずにごめんなさい;;また近々再開しますのであともう少しだけ待っていて下さいね!温かいお言葉本当に有難うございます。とっても嬉しいです^^ (2018年7月9日 0時) (レス) id: ba5f8d5732 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - sioriさん» siori様、しばらく更新せずにごめんなさい;;次の章では彼等sideも出てくるので全容が明らかになるかと。ってそんな大したこともないんですけどね(笑) (2018年7月9日 0時) (レス) id: ba5f8d5732 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - clubwonderさん» お返事遅くなってごめんなさい;;毎日覗きに来てくださっていたなんて嬉しくて泣きそうです。今少しお休みしていますが、今月末からまた書き進めようと思っていますのでもうしばらく待っていて下さいね。本当に読んで下さって有難うございます! (2018年7月9日 0時) (レス) id: ba5f8d5732 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましろ | 作成日時:2018年5月8日 18時