傷だらけの僕等がいた 2 (ページ29)

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宏の決意ページ29

目を覚ませば、太ちゃんにがっちりとホールドされている身体。

そっと身動ぎすれば太ちゃんもすぐに目を覚ました。

「A？」

「ト、トイレ行っていい？」

「やだ、離れたくない....」

拗ねたように口を尖らす太ちゃんが可愛くて、私はその頬にそっとキスを落とす。

「すぐ戻ってくるから」

「ん、すぐ戻ってきて。あ、歩ける？身体しんどくない？俺、結構激しくしちゃったから....」

「だ、大丈夫」

ついさっきまでの行為を思い出して、思わず顔が熱くなる。

「俺も余裕なくって。次はもうちょっと優しくする....」

本当に反省してるみたいな太ちゃんの表情に、つい笑ってしまった。

「何だよ、Aのが余裕じゃん。初めてのくせに」

そんな風に言ってくれる太ちゃんの優しさが嬉しくて。

「有難ね、太ちゃん」

「有難うは俺の台詞。Aこそ、俺を受け入れてくれて有難ね」

柔らかなキス。
優しいキス。

甘い甘い夜が更けていく─────。

∇

「北山、仕事の拠点海外に移すんだってな」

社長に言われた私はびっくりして、手にしていた資料を床に散乱させてしまった。

「何？桜木、知らなかったの？」

社長の方も驚いた顔で私を見つめる。

「今、新しい仕事は全部断ってるらしくて、この間仕事頼んだら断られたんだよ」

知らなかった....

海外で暮らすってこと？

だけど突然どうして海外に。

「ステップアップしたいんじゃないのか？あいつはああ見えて頑固だし、野心家だし、今の仕事に思うところがあるんだろ」

社長が私以上に宏のことを理解ってると思う時はこういう時だ。

社長は初めて宏と仕事をした時から、宏のことをとても気に入って、よく面倒を見てくれていた。

「そう、ですね」

「珍しいな、北山がお前に言わないなんて」

「きっと、止められるのが嫌だったんじゃないですかね」

無理に笑顔を貼り付けて答える私を見て、社長は話題を変えてしまった。

その日は一日中仕事が手につかず、散々な日だった。

宮っちのフォローがなかったら、クレームの嵐だったかもしれない。

「もう、今日は早く帰った方がいいよ」

宮っちに言われ、珍しく定時にオフィスを出た。

宏に連絡しようかと何度も携帯電話を取り出してみたものの、自分から連絡する勇気は出なかった。

宏がこうだと自分で決めたことは絶対に覆せない。

けれど少しの相談すらされなかったことは、やっぱりショックで。

私は宏の撮った駅構内のポスターを長い間見つめていた。