CHAIN OF LOVE ２

決心 ページ10

最期まで離さないと誓った手。

１つに溶け合った後は、必ず指を絡ませあった指の１つ１つにキスを落とし、最後に左の薬指に唇を押し当てる北山さん。

「海の底まで一緒に沈んで」

ごめんね。ごめんなさい。

約束を守れなくて。

でもやっぱり共に生き抜きていかなければいけない人を置いて、あなたを海の底に沈めることは出来ない。

一緒に沈むことは出来ない。

健やかなる時も、病める時も、共に生きていくと誓った相手を独りにして、あなたの全てを奪うことは出来ない。

初めてこんなにも怖くなった。

自分の存在があなたの全てを壊してしまうかもしれないことに。

家族、友人、地位、名誉、

あなたはそんなもの要らないと言うかもしれない。

けれど私が、耐えられない。
全てを失った後、絶望したあなたを見るのが。

今まで必死で繋いでいた手を私が離しさえすれば、あなたは解放される。

病気の奥さんを心配するなら、ちゃんと傍についていてあげて。

嘘だ。

そんなのは本心じゃない、綺麗事で。

私に決心させた一番の理由は、入院した奥さんの為に、焦って急いで帰って行ったあなたの後ろ姿だった──


相手の幸せを願い、自分だけが沈んでいく勇気が持てた時、エゴが本当の愛に変わるのだとしたら。

エゴのままでいいからあなたを愛していたかった。
愛されていたかった。

あなた以外何も見ず、聞かず、感じず。

そんなこと叶うはずがない。


神様、どうか私に勇気を下さい。

あの人を手を離す勇気を。

誰よりも愛する人の手を離す勇気を──



「A？」

心配そうに私の顔を覗き込む藤ヶ谷さんに、

「大丈夫です」

私は精一杯微笑む。

今にも張り裂けそうな胸の痛みを必死で我慢して。


＊


週に一度のノー残業デー。
いつもよりも皆早めに退社していく。

気付けば部内には藤ヶ谷さんと私だけになっていた。

「部下が残業してると俺が怒られるんだからAもそろそろ上がれよ」

藤ヶ谷さんに言われて、私は素直に席を立った。

「藤ヶ谷さんも帰らなきゃ駄目ですよ」

私の言葉に藤ヶ谷さんが曖昧に頷く。

「A、この後さ、用事ある？」

「はい、人と会う約束が」

「だよな。ごめん、いいよ」

今日１日藤ヶ谷さんの様子が何処となくおかしいことは気付いていたけれど、正直私も自分のことで精一杯で。

『何時でもいいから眠り猫に来て。待ってるから。CLOSEでも入って来て』

北山さんからLINEが入ったのは藤ヶ谷さんと出勤してすぐだった。

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