CHAIN OF LOVE ２

変化する感情 ページ42

藤ヶ谷さんが私を抱きしめたまま、ソファーへ崩れ落ちた。

ソファーに押し倒され、藤ヶ谷さんの身体の重みと体温を感じて、一気に熱くなる身体。

絡み合ったままほどけない視線。

私を見つめる目はアルコールのせいかやけに熱っぽく、その匂い立つような色香に、心臓が激しく波打ち始める。

目を背けることは、出来なかった。
悲しく深い闇に捉えられ、囚われて。

藤ヶ谷さんのせいじゃない。

もう考えることに疲れてしまった。


宏光さん...！

闘病中の奥さんがいるのに、どうして私を。

どうして...。

そんな大変な時にどうして私と旅行なんか。

宏光さん...！


もう何も理解らない。

未来がないのなら、せめてこの過去だけは大切に、大事に守っていたかったのに。

悔恨と奥さんへの懺悔の気持ちが胸を襲い、嗚咽が込み上げた。

涙が目尻から零れ落ちた。

その涙を藤ヶ谷さんが綺麗な指でそっと掬い取る。

藤ヶ谷さんの顔がゆっくりと近づき、やがて藤ヶ谷さんの吐息を顔に感じた瞬間、私の上唇を藤ヶ谷さんが優しく食んだ。

「泣かないで」

低く、優しく、あやすような声に、余計に泣きたくなった。

じっとしたままの私の唇に、再び藤ヶ谷さんの唇が重なる。

空っぽになった心に流れ込んでくる温もり。

抗うことは出来なかった。

強がっていても、本当の自分はこんなにも弱いから。

宏光さん。

自分の存在はきっと病気の奥さんとの辛い現実からの逃げ場所だったのだろう。

そうだとしても、過去の私は幸せだったのだから後悔はしたくない。

けれど。

奥さんの気持ちを考えればそんなこと不可能だった。

ごめんなさい、ごめんなさい。

声を上げて泣き出した私に気づいた藤ヶ谷さんが慌てて身を起こす。

「A、ごめんっ、何もしないって誓ったのに」

私が泣いている理由が自分だと勘違いしたのだろう。
藤ヶ谷さんが私から離れようとした。

私はその身体を引き留めた。
藤ヶ谷さんの身体を強く抱きしめて。

「A？」

驚いた声を上げ、藤ヶ谷さんは私の耳元に顔を寄せた。

「分かってる？そんなことされたら止めらんなくなる。 信じて貰えないかもしれないけど、俺はAのことが好きなんだよ」

自分でもどうしてそんな行動を取ってしまったのか理解らなかった。

今更ながら自分が取った行動の重大さに気付き、はっとして口を開けば、

「あ、ごめんな──あっ、ﾝﾝｯ」

途中で塞がれる唇。
先刻とは全く違う荒々しい口付け。

目眩がした──

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