ETERNAL

彼女の６年 T ページ41

「暴力振るわれたりして大変らしいの」

頭が真っ白になった。

怒りで身体が震える。

オレは片手で口を押さえると、唇を噛み締めた。

暴力...暴力って...

「裕ちゃん、今なら知らないふりできるわよ」

「すぐにAさんの連絡先教えて下さい」

知らないふりなんて出来る訳がないだろ！

今すぐにでも助けに行きたいのに。

どうして。

どうして、幸せになるべき人間が幸せになれないんだ。

どうして...

神様なんて何処にもいやしない。

「裕ちゃん、すごくデリケートなことだから決して勝手に一人で行動しないで。それだけは約束して」

マスターの必死の懇願にオレは頷く。

マスターからAの今までを全て聞かされたオレはしばらく言葉を発することが出来なかった。

精神的に病んだ北山さんの奥さんに結局は訴えられ、多額な慰謝料を払ったこと。

子供を産んだ後のAが、なかなか仕事に恵まれなかったこと。

生まれた子供には持病があり、夜の仕事に復帰することも叶わず、金銭的に非常に大変だったこと。

そんな時に金銭的にも精神的にも助けてくれる男の人に出会って、子供のために結婚したこと。

その男が酒癖が悪く、酔うとAに暴力をふるうこと。

反吐が出そうな話だった。

「北山さんは何でAに援助してないの？」

「北山さんも慰謝料を自分の妻に請求されたのよ。今はきっとそんなに自由になるお金なんてないわ」

聞けば聞くほど気分が悪い話に、オレは吐きそうだった。

「ユウタくんね、生まれたばかりの頃は保険適用外な治療も必要だったらしく本当に大変だったみたい」

「だから子供のために身売りしたってことか」

「裕ちゃん、そんな言い方しないで」

マスターが咎めるようにオレを見たけれど、オレの怒りは全く収まらなかった。

「だってそうだろ！あのAさんがそんなクズ男を選ぶ訳がない。結局子供のために自分を犠牲にしたってことだろ！」

珍しく声を荒げるオレのことを、苦しそうにマスターが見つめる。

「くそっ」

苛立ちと悲しみに心が壊れそうだった。

マスターはそれ以上もう何も言わなかった。

オレはAの為に、これから何が出来るんだろう。

勿論Aがオレを受け入れてくれるとは限らない。

だけど。

オレはもうあの頃のようなガキじゃない。

今の自分はAを守れるくらいの力はある。
あるって思いたい。


だから、どうかオレを拒まないで欲しい。

A...！

再会、再び T→←現在の彼女 T

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