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現在の彼女 T ページ40

オレはAを見かけた詳細をマスターに話した。

聞いているマスターの表情がどんどん険しくなっていく。

「裕ちゃん、絶対ダメ。Aを探したら絶対にダメ」

「え、どうして?」

懐かしんでくれるとばかり思っていたオレは、マスターの険しい顔に戸惑う。

「当然でしょ。さっきも言ったように、あたしは一度この世界を出た人間が再び戻ってくることには反対なの。陽の当たる場所で生きている人間に、わざわざ過去を思い出させるなんて断固反対よ」

オレの手を握り、懇願するようにマスターが言う。

「裕ちゃん目を覚まして。Aだってこの世界を卒業してからここを1回も訪れたことはないのよ。あなただって6年Aに会わずとも生きてこれたでしょ」

オレは何も言えなくなって俯いた。

確かにそうだけれど。

「なのにどうして今更逢いたいなんて」

「今更じゃないよ。Aさんは自分の子供のこと、ゆうたって呼んでた。なら、きっとオレと同じように、オレのことを忘れてなんかいないはずだ...」

諦めていたけれど、再び会ってしまった。

出逢ってしまった。

それはもう運命だ。

ならばもう、Aに会わなかった頃の自分には戻れない。

「ガヤもマスターも過去のこと、過去のことっていう言い方をするけど。でもオレには分かんないよ。忘れたことなんてないし。今だって鮮やかに思い出せるよ、あの頃のこと...」

思い出したくない過去なんかじゃなかった。

むしろあの頃があるから今も生きていられるのに。

オレはくやしいのか、寂しいのか、悲しいのか、よく分からない感情で胸がいっぱいになり、唇をぎゅっと噛みしめた。

「裕ちゃん」

そんなオレの様子を黙って見ていたマスターが、溜め息をついた。

何か言おうと迷っているようだった。

「あたしは本当に裕ちゃんが心配なの。せっかくの輝く未来があるのに。せっかくお日様の当たる場所で皆に愛されて生きてるのに」

「そんなの」

オレは自嘲めいた笑みを浮かべる。

さらさら興味も、未練もない。

「Aはたまに電話で近況を報告してくれるのよ」

え...?

オレは驚いてマスターを見た。

「1年前に結婚したの。相手は北山さんじゃなくて、何処かの銀行員よ」

色々なことがあってお金にすごく困っていたみたいで。

「全部後から聞かされた話だから、あたしも全く力になれなくて」

マスターが苦しそうに呟き、オレの心臓はバクバクと波打ち始める。

オレは瞬きも忘れ、マスターの話を聞いていた。

彼女の6年 T→←3年ぶり T



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ayachoko(プロフ) - ましろさん» 初期でこんな面白いのかけるんですか( ; ゜Д゜)サディスティックLOVEを読んだ時から思ってました(*^^*)なんか男性の狡さとか女性の男性受けする立ち振舞いとかわかっててすごいなぁと思ってまして…(’-’*)今のましろさんが書く玉ちゃん、読みたいです(*≧∀≦*) (2017年5月12日 23時) (レス) id: b1988500b3 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - ayachokoさん» ぎゃあ、初期の作品クサすぎて(爆)読まれるの恥ずかしいです;;わ、分かりますか?遥か昔、ちょっとだけ夜の世界にいたことあります(笑)ayachokoさんに言われてまた玉ちゃんも書いてみたいなぁってちょっと思いました♪ (2017年5月12日 20時) (レス) id: df578ce2f7 (このIDを非表示/違反報告)
ayachoko(プロフ) - そして玉ちゃんかっこいい!!(*≧∀≦*)ましろさんの書く藤北玉はみんな素敵すぎて選べませんっ←違う 続き気になって止まらなくて、今からご飯慌てて作りますっ(笑) (2017年5月12日 17時) (レス) id: b1988500b3 (このIDを非表示/違反報告)
ayachoko(プロフ) - 途中すごく切なかったけど最後には幸せになれて安心しました!ふふっと笑っちゃうシーンもあって面白かったです(о´∀`о)ましろさんは夜の世界で働いてたことがあるんですか?すごくリアルだなぁと思いまして…ましろさんの作品の女の子はみんな素敵できゅんとします♪ (2017年5月12日 17時) (レス) id: b1988500b3 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - まなさん» わーん、そんなことを言って頂けるなんてとっても嬉しいです;;昔の作品は特殊なのばかりでとても恥ずかしいのですが、最後まで読んで下さってとっても嬉しいです。(*'人'*)(*'人'*)ありがとうございます^^ (2016年11月3日 16時) (レス) id: 92cf8dd04d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ましろ | 作成日時:2015年11月8日 14時

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