みっくんと太輔 ページ4
「早く帰ってきて」
太輔の別れ際の言葉が頭の中で何度も何度も再生される。
その度に顔が綻ぶのを止められない。
「A、何か良いことでもあったの?もしかして久しぶりに北山さん来てくれるとか?」
「違う違う」
同僚の夕夏が化粧室で耳打ちしてきた言葉をあたしは笑って否定した。
早く帰ってきて。
切なそうな目で、甘えた声で囁かれた言葉が、こんなに嬉しいだなんて思わなかった。
多感で繊細な年頃特有の、大人になりかけの、少し背伸びした感じの、
それでいて既にドキッとするような男の顔も見せる、素敵な男の子。
その子に早く会いたくて、一刻も早く仕事を終えて家に帰りたいと思っている自分が何だか可笑しかった。
帰ったらいないかもしれないのに。
会ったばかりの素性も分からない男の子を仮住まいとは言え自宅に招き入れて、鍵まで渡して。
いないどころか家に何もなかったりして。
それならそれでいい。
ただ単に見る目がなかったというだけのことだし。
でも本当は信じていた。
少しの時間可愛がっていただけの子猫を失って、あんな風に涙を流す優しい男の子が、つまらないことをするとはとても思えなかったから。
その時、メールの着信音が鳴った。
『今日泊まり込みなはずの仕事が早く終わりそうなんだ。Aの仕事終わる頃にはそっちに行けそう』
みっくんからだった。
本来なら飛び上がりたいくらい嬉しいメールなはずのに、あまりのタイミングの悪さに思わず動揺してしまう。
『ごめんね。今日はお店の子が失恋しちゃって、朝まで付き合うって約束しちゃったの』
苦しい言い訳だと思ったけれど、あたしはすぐに返信した。
みっくんからの誘いを断ったのは、もしかしたら初めてかもしれない。
みっくんがどう思うか正直とても不安だったけれど、だからと言って太輔を追い返す気にはなれなかった。
『了解!急にごめん。また連絡するわ』
だから、すぐに帰って来たメールにほっとした。
そして最後に、
『逢えなくても愛してるから』
一言添えてあるのを見て、泣きたくなった。
出逢った時からずっとみっくんはあたしに優しい。
その優しさ故にあたしを捨てられずにいることも理解ってる。
こんな状況をいつまでも続けていいはずがないことも。
分かってる。
分かってるけれどあたしはそんなに強くない。
「太輔...」
だから。
一刻も早く家に帰って、太輔に低く甘い声で「お帰り」と言ってもらいたかった。
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ayachoko(プロフ) - ましろさん» 初期でこんな面白いのかけるんですか( ; ゜Д゜)サディスティックLOVEを読んだ時から思ってました(*^^*)なんか男性の狡さとか女性の男性受けする立ち振舞いとかわかっててすごいなぁと思ってまして…(’-’*)今のましろさんが書く玉ちゃん、読みたいです(*≧∀≦*) (2017年5月12日 23時) (レス) id: b1988500b3 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - ayachokoさん» ぎゃあ、初期の作品クサすぎて(爆)読まれるの恥ずかしいです;;わ、分かりますか?遥か昔、ちょっとだけ夜の世界にいたことあります(笑)ayachokoさんに言われてまた玉ちゃんも書いてみたいなぁってちょっと思いました♪ (2017年5月12日 20時) (レス) id: df578ce2f7 (このIDを非表示/違反報告)
ayachoko(プロフ) - そして玉ちゃんかっこいい!!(*≧∀≦*)ましろさんの書く藤北玉はみんな素敵すぎて選べませんっ←違う 続き気になって止まらなくて、今からご飯慌てて作りますっ(笑) (2017年5月12日 17時) (レス) id: b1988500b3 (このIDを非表示/違反報告)
ayachoko(プロフ) - 途中すごく切なかったけど最後には幸せになれて安心しました!ふふっと笑っちゃうシーンもあって面白かったです(о´∀`о)ましろさんは夜の世界で働いてたことがあるんですか?すごくリアルだなぁと思いまして…ましろさんの作品の女の子はみんな素敵できゅんとします♪ (2017年5月12日 17時) (レス) id: b1988500b3 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - まなさん» わーん、そんなことを言って頂けるなんてとっても嬉しいです;;昔の作品は特殊なのばかりでとても恥ずかしいのですが、最後まで読んで下さってとっても嬉しいです。(*'人'*)(*'人'*)ありがとうございます^^ (2016年11月3日 16時) (レス) id: 92cf8dd04d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましろ | 作成日時:2015年11月8日 14時