最初の依頼 F ページ29
最初の依頼も恋人のふりだった。
その時のことを俺は眠れない頭で思い出していた。
Aの恋人のふりをして、末期癌で入院しているAの父親に会いに行った。
離婚した後も、Aを育ててきたという父親は、穏やかで優しそうな人だった。
俺会えたことを心から喜んでくれて。
Aが相談室に呼ばれてしまい、2人きりになった病室で、ふいに父親が俺の手を取り口を開いた。
「本当に良かった。Aが幸せになってくれるなら、もうこの世の悔いはないよ...」
そう言って涙を流す父親に、俺の心は激しく痛む。
「あいつは母親に何度も新しい男が出来る度に捨てられてきたから...」
それは俺も聞いたことがない、Aの過去だった。
「捨てられた..?」
きっと父親は俺に全てを打ち明け、許されたかったのだと思う。
だからこんな話を...
「母親に男が出来る度、父親のところへ行けと言われ、そうかと思えば男に捨てられると寂しくなって娘をまた引き取りに来る、の繰り返しだったんだよ、ずっと」
そう言って顔を歪める父親。
「中学卒業と同時に、家出同然にAが出て行ったのは全部私のせいなんだ...」
再婚した妻の目を気にして娘と距離を取っていた父親に迷惑はかけられないと、Aが家出同然に姿をくらませたことは、父親本人にも理解っていたらしい。
「あいつの気持ちを知っていながら、引き留めることが出来なかった私も父親失格なんだ。あいつの母親のことだけを責められない...」
確かにその通りだと思った。
15歳の少女が両親を気遣って家出をしても、少しも探そうとしなかった父親も母親も、親としての資格があるなんて言えない。
「こんな親の元に生まれてきたせいで、男に依存することに嫌悪感を抱くようになって...誰にも甘えることも出来ずに育ってしまった娘だから...君のような優しい彼氏が出来て、本当に良かった...」
本当はAの代わりに父親を責めてやりたかった。
Aは今だって決して幸せになんか生きていないのに。
けれど、嗚咽を洩らして咽び泣く姿に、激しい後悔と自責の念を感じて、俺は父親を責めることが出来なかった。
「どうかあの娘を幸せにしてやって下さい。お願いします」
俺の方に縋るように伸ばされた、もうすぐ命の光が尽きようとしている細い手。
「はい。必ず」
その言葉は嘘なんかじゃなく。
Aを幸せにしたい。
あの時、俺は心からそう思ったんだ──
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ayachoko(プロフ) - ましろさん» 初期でこんな面白いのかけるんですか( ; ゜Д゜)サディスティックLOVEを読んだ時から思ってました(*^^*)なんか男性の狡さとか女性の男性受けする立ち振舞いとかわかっててすごいなぁと思ってまして…(’-’*)今のましろさんが書く玉ちゃん、読みたいです(*≧∀≦*) (2017年5月12日 23時) (レス) id: b1988500b3 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - ayachokoさん» ぎゃあ、初期の作品クサすぎて(爆)読まれるの恥ずかしいです;;わ、分かりますか?遥か昔、ちょっとだけ夜の世界にいたことあります(笑)ayachokoさんに言われてまた玉ちゃんも書いてみたいなぁってちょっと思いました♪ (2017年5月12日 20時) (レス) id: df578ce2f7 (このIDを非表示/違反報告)
ayachoko(プロフ) - そして玉ちゃんかっこいい!!(*≧∀≦*)ましろさんの書く藤北玉はみんな素敵すぎて選べませんっ←違う 続き気になって止まらなくて、今からご飯慌てて作りますっ(笑) (2017年5月12日 17時) (レス) id: b1988500b3 (このIDを非表示/違反報告)
ayachoko(プロフ) - 途中すごく切なかったけど最後には幸せになれて安心しました!ふふっと笑っちゃうシーンもあって面白かったです(о´∀`о)ましろさんは夜の世界で働いてたことがあるんですか?すごくリアルだなぁと思いまして…ましろさんの作品の女の子はみんな素敵できゅんとします♪ (2017年5月12日 17時) (レス) id: b1988500b3 (このIDを非表示/違反報告)
ましろ(プロフ) - まなさん» わーん、そんなことを言って頂けるなんてとっても嬉しいです;;昔の作品は特殊なのばかりでとても恥ずかしいのですが、最後まで読んで下さってとっても嬉しいです。(*'人'*)(*'人'*)ありがとうございます^^ (2016年11月3日 16時) (レス) id: 92cf8dd04d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ましろ | 作成日時:2015年11月8日 14時