検索窓
今日:23 hit、昨日:93 hit、合計:917,840 hit

唐突な閑話休題・3 ページ41

NO視点




女は、そんな男を無機質にちら、と一瞬瞳に映してから直ぐに興味を失って目を逸らす。




それからこの邸宅の持ち主である紳士に、これまた息を漏らす程美しい仕草で歩み寄った。

紳士が歓喜の悲鳴を小さく上げた。




『どうしたの』




言葉が彼女の赤い唇から漏れ出る様子は官能的であり、肉厚的だった。

彼女は悉くの仕草が美しく、また官能的であったが、肉欲を覚えることはなかった。

そういった次元の存在では無いように思えたし、そしてそれ処では無かったからだ。




透き通るような、それでいて華やかな声の酔いに浸っている間に、紳士と女は話を始める。




「いや、いや、君を煩わせることは何もないのだけれど、君の素晴らしさを彼にどうしても知って欲しかったものだからね。」



『そ』



「どうかな、ナイトプールの居心地は。」



『まぁ………普通に楽しいけど。』




なんて会話を繰り広げることのできる紳士を妬ましく思いながら、なんとか、詰まる息を男は言葉として吐き出した。




「貴女の、」




女は動きを止めて、少々面倒そうに、しかししっかりと男を瞳に映した。

それだけで男は腰を抜かしてしまいそうだったが、何とか持ちこたえて、言葉を続ける。




「貴女の、お名前は?」




女はその言葉に、うっとりと心酔してしまう酷く美しい笑みを浮かべ、笑った。

今まで自分の見て来た笑みがただの顔の皺に思える笑みだ。ただひたすらに美しい。




『其処で会ったばかりの男に名を告げる程の安い女ではないから。

精々名前が聞ける程度の男になってから出直してね、お金持ちのお坊ちゃん?』




身なりから察したのか、それとも紳士から聞いていたか、恐らく前者だろう。

しかし男は自分のことを一つでも知ってくれている事が嬉しくて、そして、彼女に見合う男になる方法を脳がフル回転で考える。




そして考えている内、彼女は『じゃあ、私は明日には日本に戻らなくてはいけないし。部屋に戻るからバイバイ』と言って姿を消した。




男はどさりと音を立ててその場に座り込んだ。腰を抜かしたのだ。




それから暫し考えを巡らせ、ぽつりと言った。




「嗚呼、俺が間違っていた。」



「そうだろうとも。」




きっと、男は一生、名すら聞けなかった彼女の傍に居れる事を望む都合の良い人間になるのだろう。

そして一生、きっと言いようもない程に幸福だ。

外出が三十七回→←唐突な閑話休題・2



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (1109 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2315人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

(プロフ) - 終わっているですと!? (2月20日 0時) (レス) @page48 id: c840862e70 (このIDを非表示/違反報告)
くまさん - お願いします!!!終わらないでください!超好みの小説なんです〜! (12月10日 1時) (レス) @page48 id: 888b8ee33d (このIDを非表示/違反報告)
メープル - こういうのホンっと好きです!続きをお願いします!!!! (12月9日 14時) (レス) @page48 id: e52a8096f8 (このIDを非表示/違反報告)
あまね(プロフ) - おわた? (12月2日 10時) (レス) @page48 id: 2b125e9969 (このIDを非表示/違反報告)
日向 - 終わっ…て…いる…? (9月8日 16時) (レス) @page48 id: 8f5d606c19 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:豆腐教信者 | 作者ホームページ:   
作成日時:2019年4月20日 9時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。