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学校を終えて、まだ誰も帰ってきていない家に帰る。
私は買ってきた食材を冷蔵庫に収めた。
これからいろいろと家事をしながら、智実さんの帰りを待つ。
両親たちにはお手伝いを雇わないのかと何度も尋ねられたが、智実さんは一切考えを曲げることなく、自分も家事を手伝うから私と二人きりで過ごしたいと言ったのだ。
そして、智実さんは意外にも家庭料理が食べたいと言った。智実さんの実家は当然のごとくお手伝いさんがいて、料理も全てそのお手伝いさんがしてくれていたらしいのだが、母親の味、家庭的な味というものを感じたことがないと言っていた。
もちろん、私の家もお手伝いさんが全てしてくれていたため、これが家庭の味になるのかは不明だが、私が作るのならそれでいいと優しいお言葉をもらった。この時ばかりは母の言う通り料理を習っておいて良かったと思った。
朝干しておいた洗濯物を取り込んで掃除もすると、夕飯の支度をはじめる。いつも家事一つするのにとても緊張する。洗濯物に汚れが残っているものはないか、床にホコリが落ちていたりしないか、今日の夕飯は洋食か和食か、嫌いなものはあるか、口に合わなかったら、考え出したらキリがない。
智実さんは私に対してはあまり怒らないが、何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったらと思うと、毎日胃がキリキリと痛んだ。
いかんいかん、考え事ばかりしていると、料理をダメにしてしまう。
もう一度ちゃんとお鍋に向き合ったとき、急に後ろから手が回ってきた。
「ッひ、」
「ただいま」
驚いたのもつかの間、聞こえてきた声に不審人物でないことに安堵する。
「さ、智実さん、おかえりなさい。あのスーツにシワがつくので、着替えてきたほうが」
「んー、もうちょっとこのまま」
そう言って私のお腹に回った手に力が入った。
智実さんはどうやら私を抱きしめると安心するらしい。
けど、私は今まであまり人とましてや男の人とスキンシップなどとったことがあるわけがなく、いつもドキドキしてしまう。きっと、顔も茹でたタコのように真っ赤になっているに違いない。
首元にかかる智実さんの息に緊張しながら私は鍋を見つめた。
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作者名:まるたちばな | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/marutatiba1/
作成日時:2020年12月25日 20時