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「ありがとうございました」

酔っ払った智実さんを何とか支えながらタクシーを下りる。そのまま半分寝た状態の智実さんを連れてエレベーターに乗り込んだ。

こういうとき上に住んでいると少し不便だ。着くまで少し時間がかかるし、その間に智実さんが眠って倒れてしまわないか心配だ。

「智実さん寝ないでください。あとちょっとですから」

瞼を閉じようとする彼の肩をトントンと叩いて起こす。もし眠ってしまったとき、私にはエレベーターから彼を担いで家まで連れて帰ることはできない。

「美詞・・・?いる?」

「?・・・いますよ」

さっきから彼の真横で彼の体を支えているのに、「いる?」なんておかしな質問だ。

「良かった・・・美詞〜」

「わわっ、」

急に抱きついてきた智実さんを慌てて受け止める。
智実さんとは身長差も体格差もあるし、お酒で酔っている今は普段抱きついてくるのとはかかる体重が違う。

自分の体をエレベーターの壁で支えながら、私は智実さんを抱きとめた。

「どうかしましたか?」

「あのね、俺ね、美詞すきだから、不安でね、だからね、美詞どこにも行かないでね」

回らない舌と頭で一生懸命伝えてくれる智実さんの言葉はストンと私の心に落ちた。

そうだ。智実さんは不安で、“私”がその不安の穴を埋めてあげようと誓ったんだ。

ちゃんと智実さんは私のことを想ってくれてるじゃないか。お酒が入っていても一度だって姉と私を間違えたことはなかった。

ちゃんといつも私の名前を呼んでくれる。
求められてる。

当たり前すぎて、こんな簡単なことに気づけなかった。

「・・・私も、好きです。大好きです。どこにも行きません。ずっとそばにいます」

私は智実さんの背中にそっと腕を回した。

「・・・美詞」

彼はまた私の名を呼んでギュッと抱きしめた。

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作者名:まるたちばな | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/marutatiba1/  
作成日時:2020年12月25日 20時

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