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あの後どんどん料理が運ばれてきて、あっという間にテーブルの上はお皿で埋め尽くされた。
あれも美味しい、これも美味しい、と智実さんが勧めてくれるものは本当にどれも美味しかった。
「まさにこれこそ家庭料理に近しい気がします」
「だよな」
そう言って少し酔った様子の智実さんはヘラッと笑った。
「家でも一つの大皿を囲んで皆で分け合って食べる。そんな食事をしたことはありませんでした。でも、こうやって食べたいものを食べたい量だけ自分で取り分けて、最後の一口を譲り合ったり、取り合ったり、そんな光景が家庭らしい気がします」
「ふふっ、うちも大皿を導入する?」
「そうですね!」
智実さんの家庭料理を食べたいという願いにまた一つ近づいた気がする。大皿で食べる料理を少し調べてみようかな。
私たちは、私はきっと知らないことが多い。自分が思っている以上に箱に入れて大切に育ててもらっていたのかもしれない。
なら箱の外の世界を学ぶしかない。社会の常識を知ることも教養の一つだ。
私はそう意気込んで、ジンジャーエールを注文した。
*
「美詞〜、もぅ、かえろ〜」
美味しい料理のおかげか、お酒の進んだ智実さんは随分酔いがまわってしまったようで、少し舌足らずだ。
きっと家までの道も歩けないだろうし、タクシーを呼んでおこう。
「智実さん、タクシーを呼んだのでそろそろお店を出ましょう」
「んぅ、うん・・・」
もう寝てしまいそうな智実さんに困り果てていると七森さんが音もなく現れた。
「智実くん、けっこう飲んだみたいだね〜。俺が運んであげるから、お会計行っておいで」
「あ、ありがとうございます」
私は七森さんにお礼を言ってお会計に向かった。伝票を渡してお支払いを済ませると、智実さんが七森さんの肩を借りながら歩いてきた。
「タクシー呼んだ?」
「はい」
「じゃ、店の外出ようか」
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作者名:まるたちばな | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/novel/marutatiba1/
作成日時:2020年12月25日 20時